角野隼斗 - All Chopin Program @ 紀尾井ホール (2021.6.25)
6月25日(金)夜、紀尾井ホールにてファンクラブ限定「角野隼斗ショパンコンサート」が開催された(ヘッダーは1部の後の休憩時間に2階席から係員の許可を得て撮影したもの)。コンサート告知はブルーノート公演(6月6日・7日)の興奮冷めやらぬ11日。アーカイブ配信が終わって名残惜しい気持ちでいっぱいの翌日だ。5月のラボ配信でほのめかされていたショパンコンクール出発前の壮行会の位置づけ。抽選だったので、当選を願いつつ、抽選当日の朝10時に申し込んだ。プログラムも11日に公開されたので当日までルビンシュタイン、ホロヴィッツ、アルゲリッチ、アシュケナージ、ダンタイソン、ポゴレリチ、ブレハッチなど様々な音源で予習した。もちろん角野さんの1st Album「HAYATOSM」やYouTube動画も改めて聞き込んだ。以下はただのショパン好きの素人が感じたことを備忘録として残す目的で書いた。音楽の専門知識も語彙力も不足しており恥ずかしいが、初noteを掲載してみることとする。
1部のプログラム
※曲名の後の()内の数字は作曲年 (Chopin Instituteのウェブより引用)
①マズルカ Op.24 (1833-36 (1834-35?)) - 予備予選 and/or 3次
マズルカはポーランドのフォークダンスで、ショパンは幼少期から踊ること含めその独特なリズムやメロディーに慣れ親しみ、15歳の頃からマズルカを作曲してきたという。ポロネーズと合わせ、ポーランドらしい曲のジャンル。そんなマズルカ、馴染みのない外国人が弾きこなすのが最も難しいジャンルだと思う。私自身、50数曲のマズルカを全然聞き込めていないが、Op.24や後期マズルカの数曲(Op.59他)はお気に入りでたまに聞いていた。
今回の角野さんの演奏を聴いて素直に感動した。以前視聴したYouTubeの動画ではさらりと弾かれている印象を持ったが、昨夜のマズルカOp.24は独特のリズムが心地よく刻まれ、ポーランドの田園地帯が眼前に広がり、村人のフォークダンスの靴音が聞こえてくるようなノスタルジックな雰囲気を堪能できた。恐らく一番解釈が難しい第4曲目は、ショパンが祖国を思う魂の叫びのようなものが角野さんの音に乗っていたような気がして、私も聴きながら心が震えた。作曲された時期も祖国を離れてウィーンを経てパリに移り住んで数年経つ頃であり、Op.24にはショパンの祖国愛が表わされている気がしてならない。
②練習曲 Op.25-4・Op.25-11 (before 1837 (1835-37?)) - 予備予選
Op.25-11「木枯し」は右手6連符の音の粒がきれいに揃い、勢いのある素晴らしい演奏だった。紀尾井ホールまでの道中の土手の木々の葉が少し強い風に吹かれる情景が脳裏に浮かんできた。
③ピアノソナタ第2番 変ロ短調 Op.35 (1839; 行進曲は1836-37) - 3次
ショパンの傑作中の傑作といわれるソナタ2番。個人的にはポゴレリチやカヴリーロフの重々しさや鬼気迫る壮絶さが好みだ。ポゴレリチやカブリーロフは旧ユーゴやロシアの音楽家であり、抑圧された社会で鬱積した気持ちや祖国愛などが2番を弾く際に影響しているような気がしている。
角野さんの2番の生演奏、初めて拝聴した。全体に抒情的で力強いと感じたが、観客が恐怖感を覚えるような荒々しさや激しい感情の動きは表現しきれていないように感じた。例えば、2楽章(スケルツォ)の中間部は重々しい空気のまま弾くところだと思うが、角野さんのお人柄や性格を反映してか、少々優雅に歌い過ぎているような印象を持ってしまった。それ故、葬送行進曲の3楽章との繋ぎが少々ぎこちなく感じた。このように感じたのは、私がこれまで聞いてきた生演奏や気に入っている音源の2番が少々偏っており、その影響を受け過ぎているせいかもしれない。
④スケルツォ第3番 嬰ハ短調 Op.39 (1839) - 1次 or 2次
スケルツォはもともとイタリア語で「冗談」を意味するらしいが、ショパンのスケルツォは、角野さんが2部のMCで「1部のプログラムはシリアス」と話されていた通り、まさに「シリアス」の代表格のジャンルで陰鬱なパッセージが多く含まれていると思う。
角野さんのスケルツォ3番は強弱や緩急のつけ方がダイナミックで、現実世界からあの世に突き落とされたような激しさも時折感じられ、最後まで魅了された。この後、休憩時間がなければ、観客一同、呼吸困難に陥るかと思うほど、息を殺し、聴き入っていたことを肌で感じた。
2部のプログラム(20分の休憩後)
箸休め ノクターンOp.9-2 (即興Jazzyアレンジ by Cateen)
休憩時間の後、舞台に戻った角野さん、いきなり軽いタッチでノクターンOp.9-2を弾き始め、ジャズ風のアレンジをどんどん加え、一気にCateen Worldに誘われた。1部の張りつめた空気が一気に和らいだ。その後、本コンサート初のMCで「(今のは)箸休め的な・・・」と言って聴衆を笑いに誘った。「1部はシリアスで2部はユーモラスのあるプログラムとなっているので、引き続き楽しんで頂きたい」を挨拶。
⑤マズルカ風ロンド ヘ長調 Op.5 (1826 (1825?)) - 2次 or 3次
ショパンが16歳の時に作曲し、伯爵令嬢に献呈したマズルカ。角野さんの演奏は箸休めのノクターンのJazzyなノリがそのまま乗り移ったかのように、軽快で煌びやかで瑞々しいものだった。ちょっと煌びやかすぎたきらいも否めないが、16歳のショパンの気持ちに寄り添ってみたのかもしれない。
⑥バラード第2番 ヘ長調 Op.38 (1st 1836?; final 1839) - 予備予選, 1, or 2次
1836年はジョルジュサンドに出会った年で、本作品はその頃から作曲されたようだ。スケルツォより物語性があって、音のグラデーションが豊かなところが魅力のジャンルだと思っている。
角野さんのバラード2番は緩急がはっきりしていて、徐々にテンポアップし、激しいコーダに一気に突き進んでいくところがとても良かった。3月のIMAホールで拝聴した時より音のグラデーションがはっきりしていた。
⑦ワルツ第1番「華麗なる大円舞曲」 変ホ長調 Op.18 (1832) - 2次
ショパンが一番最初に作曲したワルツで、技巧的に最も難しいワルツに見える。
角野さんは5月3日にエラールで弾かれていたが、昨夜初めて生演奏を聴いた。同音連打、跳躍、和音、次々と出てくるワルツのメロディー、コーダに至るまでテンポを崩さずに楽しげに弾く姿にすっかり心を奪われた。
⑧ポロネーズ第6番「英雄」 変イ長調 Op.53 (1842) - 2次
角野さんの18番の英雄ポロネーズ。前日のクラッシックTVで清塚さんが好きだと言っていたタメの部分、中間部の左手のオクターヴの動き、繊細なペダリング、華麗なエンディング・・・。観客は角野さんの動きに目が離せなかった。ショパンコンクールの本選2次で拍手が鳴りやまない場面が脳裏に浮かんできた。
アンコール 練習曲Op.10-1 (1829) - 予備予選 or 1次
時々YouTubeでさらっと弾く場面を何度か見てきたが、昨夜の演奏は本当に圧巻だった。折を見てぜひYouTubeに上げて頂きたいと思った。
この後(この前?)、再びMC。「話すことないんですが・・・」と角野節が始まり、ホールは笑いに沸く。その後、研究をしていた時に考えていた「巨人の肩の上に立つ」ことを(クラシック)音楽の世界でも目指していきたい、引き続き応援して頂けたら嬉しい、と締め、会場から大きな拍手がおこった。また、会場を見渡しながら、「満席のホールで演奏するのも久しぶりです」と感慨深げに話すと、観客席から大きな拍手が沸き起った。その後も鳴りやまない拍手に応えるようにして登場し、その拍手に応えるように、子犬のワルツでも弾きましょうかと言い、弾き始めた。
アンコール 子犬のワルツ+大猫のワルツ (即興アレンジ by Cateen)
ここで再び、ブルーノートのライブを彷彿させるCateenさんが顔を出し、子犬が駆け回っていたかと思ったら、大猫が登場し、軽やかにCateenさんの周りを走り回った。終盤で子犬が再登場し、Cateen劇場は幕を閉じた。
最後に
ブルーノートライブの楽しい夜を思い出して楽しい気分になりつつ、予備予選ではCateenさんに少々静かにして頂き、角野さんに頑張って頂きたいと秘かに願いながら拍手を送り続けた。感動の余韻に浸りながら帰途につき、感動薄れないうちにnoteに書き連ねてみた(夜中に書いた文章は乱れていると思い、翌日、冷静な状態で見直し少し修正した)。
角野さん、ファンクラブ会員を壮行会にお招き頂き、有難うございました!まずはポーランドの予備予選の健闘を心から祈っています。
(終わり)