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24の調によるトルコ行進曲変奏曲を考える(原曲との比較etc.)

24の調によるトルコ行進曲変奏曲はHAYATO SUMINO Concert Tour 24 KEYSのプログラムで初披露された角野隼斗/かてぃんさん渾身の一曲。ホールと配信で聴いたが、変奏曲の展開に圧倒させられっぱなしで、ところどころで感じた不思議な浮遊感やゾクゾク感は、転調によるところが大きかったと思う(ヘッダーの写真は函館公演)。私が尊敬しているJacobも転調への愛を語っている。

転調は音楽の世界を行き来する喜びです。
少なくとも僕は大好きです。

Jacob Collier

他に、24の調によるトルコ行進曲変奏曲の転調に焦点をあてたnote(ほーすさんmiwaさん)があり、私のnoteより専門的に詳述されているため、ご参照されたい。私のnoteは、3月6日のサントリーホールでの公演後から、自分の理解のために学んだことを図式化をしたり、モーツァルトの原曲との比較などをおこなったりした結果、ちょっとした気づきを書き起こしてみたものである。

注)以下に埋め込んである図(PowerPointで作成)はスマフォよりPCでの方が読みやすく、スマフォのダークモードだと読みにくいため、ライトモードをお勧めする(iPhoneで検証済)。

モーツァルトのソナタ第11番 第3楽章「トルコ行進曲」


まず、モーツァルトの原曲の構成・転調について把握することにした(調性についてはピティナ・ピアノ曲事典等を参照)。モーツァルトの原曲では、2つの長調、2つの短調が使われ、リピートを含めると、7回転調、3つの転調パターンが使われている(図1・2を参照)。

図1:モーツァルトのトルコ行進曲の構成と転調
図2:モーツァルトが用いた調性(五度圏の図はWikimedia Commonsより、以下同様)

24の調によるトルコ行進曲変奏曲

角野隼斗の24の調によるトルコ行進曲変奏曲(以後「隼ト24変奏曲」と略す)は、「長調12調、短調12調が全て1回ずつ出現して構成される変奏曲」(KEYSのプログラムより引用)で、かてぃんラボでは、「半音、全音、短3度、長3度、完全4度、増4度と6パターンの転調がバランスよく入るように考えた」というニュアンスの話をしていたので、どの転調をどのように取り入れたのかを、私なりに把握してみたいと思った。まず、転調の流れを図3に示す(⑭(C#)→⑮(D♭)の主音は同音異名のため、「同主調」と整理)。12の長調と12の短調の転調パターンの変遷がパッと見て分かるよう、長調と短調の文字、転調パターンについて私の独断で色付けをしている。

図3:隼ト24変奏曲の転調の流れ

図3の転調パターンは、かてぃんラボで話されていた1~6(図4参照)に加え、以下の3パターン(同主調(例:ハ長調(C)ーハ短調(Cm)、平行調、(下)属調、)も加えた。以下をみると、一部例外を除き、各転調パターンが3-4回ずつ使われていることが分かる。

Part 1-3は、私の独断と偏見で分けたもので、詳細は後述する。

図4:隼ト24変奏曲の転調パターンと登場回数

【図4の注】
※1:1~6はかてぃんラボで話されていた転調。青字は私が追加。
※2:ほぼ平行調=短3度だが、平行調ではない短3度と区別。
※3:ほぼ完全4度=下属調だが、下属調ではない完全4度と区別。

次にモーツァルトのトルコ行進曲の構成と転調の流れと比較し、「隼ト24変奏曲」について考えてみた。その結果、私なりの小さな気づきがあったので、ここに書き留めたい。

まず、隼ト24変奏曲のPart 1を見る(図5)。隼ト24変奏曲の①イ短調から⑩ト長調までの、長調・短調の流れ、転調パターンは、モーツァルトのトルコ行進曲をほぼ踏襲している(コーダは比較対象から除外)。赤丸で囲ったところが、モーツァルトの原曲との違いである。③変イ長調(A♭)→④イ長調(A)としたのは、トルコ音楽で頻出するAの音(何かの文献で読んだが、失念したため、追って出典を追記したい)を半音転調で強調し、ピアノでは不可能なものの、かてぃん・マジカルパワー(打鍵の工夫やペダルさばきなど)でハーフ♭(1/4音)や微分音のような音を何とか創り出し、トルコ風の民族音楽の雰囲気を出してみたのか。長3度→短3度の転調を連続させた部分は次のPart 2への期待感を表してみたかったのだろうか。

図5:モーツァルトのトルコ行進曲と隼ト24変奏曲Part 1の比較

次にPart 2を見る(図6)。モーツァルトの原曲の、短調→長調→短調→長調の流れは緩やかに保たれている。このPartでの興味深い点は、⑪から⑮にかけての転調の幅(±n)が、平行調、全音、半音、同主調(+3, +2, +1, 0)と変遷していることである。転調を用いた数字遊びとでも言おうか。これは偶然・・・?かてぃんラボでの解説を待ちたい。

ちなみに、私がKEYSのコンサートの2回目(サントリーホール)、グランドピアノの蓋の前の席に座って聞いた時に、特に気に入った部分の1つは⑭~⑮にかけてだった(休憩時間中にプログラムに印を付けたのを覚えている)。ここで灯っていたブルーのライトも脳裏に焼き付いている。詳細記憶できていないが、ピアノ協奏曲などの緩徐Partだったような気がしている。

図6:モーツァルトのトルコ行進曲と隼ト24変奏曲Part 2の比較

最後のPart 3(図7)は、隼ト24変奏曲のクライマックス、ドラマティックなエンディングである。モーツァルトがこのソナタを作曲した年は、オスマン帝国の軍隊がウィーンを包囲した戦いの100周年にあたる1783年だったとのこと。かてぃんさんは、ラボで話していたように、ここで、モーツァルトがやらなかったトルコ音楽の旋法、マカームの世界を表現してみたのか。特に短調で畳みかけていく部分(⑱~㉓)。

このPart 3は、モーツァルトの原曲の構成や転調の流れと全く異なるが、最後、長調で締めくくるところは同じ。ここでも興味深い点に気づいた。エンディング(私が勝手にPart 3と区切ったところ)は、ホ長調(E)で始まり、変ホ長調(E♭)で終わる。その間に、転調パターンがきれいな形で収まっている。図7だけでは物足りず、図8でも、そのきれいな収まり具合を示してみた。これを図式化しながら、音楽が数学的と思う瞬間を味わった。角野さんの「理系の血が騒いだ」シーンを見てしまったような気分になったが、真相は・・・?こちらも、かてぃんチャンネルでのYouTube動画→かてぃんラボでのさらなる解説を待ちたい。

図7:モーツァルトのトルコ行進曲と隼ト24変奏曲Part 3の比較
図8:⑱~㉓までの調性・転調

最後に

なぜ「変ホ長調」がトリを務めることになったのか。変ホ長調というと、ベートーヴェンの交響曲第3番(英雄)を思い浮かべてしまうが、最後は、祝祭感を出したくて変ホ長調を選んだのだろうか。全ての転調パターンをバランスよく使うという制約を課す中で、別の調性で終わる選択肢もあったのだろうか。

それから、各調性(①~㉔)は(だいたい)同じ小節数だったのか。照明係さんはどのようにライトを切り替えていたのか(だいたいの楽譜が存在し、それを見ながらやっていたのか、それとも・・・?)。

なお、調性と色については、リムスキー・コルサコフやスクリャービンなどが、代表的な調性に対して感じていた色(色聴)の記録が残っていたり、虹の色に当てはめている人もいる模様だ(図9)。この件は、また時間ができた時に、別途調べて追記したい(するかもしれない)。

図9:Wikimedia Commonsより

(終わり)

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