第18回ショパン国際ピアノコンクールの予備予選出場者とYouTube
(日本時間7/24に発表された予選通過した出場者の名前の前に★を追記)
1年延期された第18回フリデリック・ショパン国際ピアノコンクール(以下「ショパコン」と略す)の予備予選(Preliminary Round)がワルシャワで7月12日から23日まで開催される(ヘッダーはChopin Competition 2015 Finals、出典:Wikimedia Commons)。
今回特に応援している出場者は角野隼斗さん(YouTubeでは"Cateen";2021年7月4日現在、チャンネル(以下「CH」と略す)登録者数は76.8万人)で彼の演奏はコンサート、ライブ、YouTube等で聞く機会に恵まれてきた(と言っても、チケットは常に運を神に頼むしかない抽選か激しい争奪戦に挑んで獲得する必要があり、チケットサイトでの操作で命運を分けることがしばしば、毎回寿命が縮む思いをするほどの大人気っぷりだ)。YouTube上にある角野さんのショパンは、ポロネーズOp.53「英雄」、練習曲Op.10-1、練習曲Op.25-11「木枯し」、ノクターン13番Op.48-1、子犬のワルツOp.64-1、スケルツォ1番であり、ぜひとも聞いて頂きたい。昨年12月には1stアルバム「HAYATOSM」が発売され、日本のクラシック史上稀にみる好調な売れ行きを現在も更新中である。
一方、他の出場者については一部の方の演奏は聞きに行ったことがあるが、予備予選の出場者は160名(辞退者が出て最終的に151名)と非常に多いため、大半は存じ上げない(私は無類のショパン好きで物心がついた頃からルービンシュタイン、ホロヴィッツ、ポリーニ、ツィメルマン、アシュケナージ、ダンタイソン、ポゴレリチ等を愛聴し、最近はブレハッチとトリフォノフも気に入ってよく聞く)。
今回の予備予選(Chopin Instituteのチャンネルから4Kで配信予定)に先立ち参加者の演奏を事前に視聴したく、YouTubeでどのくらい出場者の「ショパン」を鑑賞できるのかをざっと調べてみたので、備忘録として残したい。
以下は予備予選の出場者リストから私がこれまでに演奏を聞いたことがある、或いは名前だけ知っている方々を選んだ(この記事の続きはこちら)。各プロフィールはChopin InstituteのCompetitorsに記載があるため、ここでは詳述しない。予備予選の課題曲はp.4-5に記載がある。
①★Mr. Hyounglok Choi (South Korea): Evening Session, 12 July
Hyounglokは2019年の仙台国際音楽コンクールピアノ部門で優勝しているほか、2017年のブゾーニ国際ピアノコンクールではファイナリストになっている。YouTubeチャンネル(CH登録者数は2,500人)を開設済みだが、ショパンはエチュードOp.10-2(2016年)しか見当たらなかった。別サイトでピアノソナタ3番Op.58(2020年8月)やノクターンOp.27-1(2020年3月)を見つけた。何れもショパンの美しい旋律を歌うように繊細に弾かれていると思う。
②★Mr. Alexander Gadjiev (Italy/Slovenia): Evening Session, 13 July
Alexanderは20歳の時、2015年の第9回浜松国際ピアノコンクールで優勝と聴衆賞を受賞したほか、数々のコンクールでの受賞歴を持ち、欧州では最も注目されている若手ピアニストのようである。彼は2008年にYouTubeチャンネル(CH登録者数は65人)を開設、17の動画がアップロードしているが、何れも10年以上前のもの。他のサイト(カワイ音楽振興会)では浜松の二次予選の動画があり、2曲目がショパンのピアノソナタ2番(5'19"から)だ。1楽章、鋭い冒頭から惹きこまれ、重量感のある音と高い緊張感で弾き進められる。2楽章の強弱の対比、3楽章の葬送行進曲の入りも厳かで良い。若干20歳と思えない余裕のある演奏だと思った。直近の演奏はイタリアでの2020年9月のコンサート動画。ショパンはバラード2番ほか2曲が聴ける。
(7/24追記:こちらの予備予選と同時に平行にオンラインで開催されていたシドニー国際ピアノコンクール(7/1-18)で優勝。2つの国際コンクール同時並行で挑戦し優勝までしてしまう神業に感服した;Facebookの記事はこちら)
③★Mr. Martin Garcia Garcia (Spain): Evening Session, 13 July
Martinは2011年にYouTubeチャンネルを開設、56本の動画がアップロードされており、非常に幅広い曲目が並んでいる。ショパンは2019年の終わりに録画された練習曲Op.10-4、練習曲Op.25-4、幻想曲Op.49、ノクターンOp.27-2(これらは予備予選の課題曲)がある。全身で音楽を奏でている雰囲気が特徴的に思えた。上半身を大きく揺らし、時折左足も自然に動く。何より気になったのは口元。歌っているのかリズムを取っているのか。
④ Mr. Chi Ho Han (South Korea): Morning Session, 15 July
Chi HoのYouTubeチャンネルは見当たらなかったが、彼のトピックでショパンの24の前奏曲Op.28の音源があった。彼は2015年のショパコンで本選3次(20人選出)まで進んでおり、Chopin InstituteのYouTubeチャンネルに39本の動画(24の前奏曲含む)がアップロードされている。3次ではショパンの最高傑作と言われる後期マズルカOp.59-1、Op.59-2、Op.59-3を高度なテクニックで弾きこなしているように見えた。この他、ポロネーズOp.53(英雄)、新たな課題曲に組み込まれた24の前奏曲(梅雨時に聴きたい「雨だれ」Op.28-15)をShigeru Kawaiで弾いている。さらに2016年エリザベート王妃国際音楽コンクールでは4位に入賞している実力の持ち主である。
⑤★Mr. Nikolay Khozyainov (Russia): Morning Session, 16 July
Nikolayは2009年にYouTubeチャンネルを開設済みで、CH登録者数は2.1万人である。ショパコンに出場するピアニストらしく、マズルカとポロネーズは全曲(!!)、その他ショパンの練習曲(例えば、Op.25-11「木枯し」)など演奏動画をアップロードしているほか、旅行や書籍の紹介動画もあり、YouTuberとしての活動も行っている点が非常に興味深い。動画で話をする際にはロシア語ではなく英語を話しており、日本人にも分かりやすい発音だ。ショパンの伝記について紹介する動画は8分と程よい長さなので、ぜひお勧めしたい(笑)。2019年にはオールショパンのCDを発売しており、そのコンテンツもYouTubeで聞ける。
Nikolayが18歳の2010年、第16回ショパコンに出場し、ファイナリストとなっている。本選3次ではポロネーズ7番Op.61「幻想」、バラード4番Op.52、ソナタ2番Op.35「葬送」を弾いている。ショパン好きで耳だけ超えている素人からみて優しさに溢れたショパンらしい弾き方が魅力的だが、ピアノ協奏曲1番では協奏曲の経験不足のせいか、オケより先走って弾いてしまっているところが残念だった。11年の歳月を経て、再びショパコンの舞台に戻ってきた。29歳になる前日の7/16の予備予選ではどのような演奏を見せてもらえるのか、非常に楽しみである。
⑥ Mr. Honggi Kim (South Korea): Morning Session, 16 July
Honggiは今週7月8日に30歳の誕生日を迎える(とプロフィール欄でたまたま気づいた)。出場者の中では年長の方か。彼は2016年にYouTubeチャンネルを開設し、CH登録者数は93人。動画は9つしかなく、うち2つがショパン。2019年12月にミュンヘンのホールで録画された動画には練習曲Op.10-11が含まれる。別動画に幻想曲Op.49もある。彼は2015年のショパコンの本選1次に出場しており、1次ではノクターンOp.48-1を弾く動画はゆったりと透明感のある音が印象的である(予備予選の動画はこちら)。また今年のエリザベート王妃国際音楽コンクールに出場し、1次でショパンの練習曲Op.10-11を弾いている動画もある。
(追記)日本時間2021年7月10日に予備予選のスケジュールを再確認したところ、名前が消えていた(出場を辞退した可能性が高い)。
⑦★Mr. Mateusz Krzyżowski (Poland): Evening Session, 16 July
Mateuszは今年4月にYouTubeチャンネルを開設したばかりで、CH登録者数は9人。動画はまだ1つしかアップロードされていない。この動画の4曲目がショパンのスケルツォOp.31(9'55"から)で、ワルシャワのショパン音楽大学で録音されたものである。その他の動画は、Chopin Instituteのサイトの週末のコンサートで、2020年8月の動画ではポロネーズOp.53「英雄」、スケルツォOp.31、前奏曲を弾いている。2021年7月4日(日)に宮殿で開催されたコンサート動画も早速アップロードされている。Shigeru Kawaiのピアノで弾くバラード第1番Op.23は旋律のカンタビーレが何とも美しい。その次の曲はマズルカOp.56-1, 2, 3、ノクターンOp.48-2、スケルツォOp.31と続く。
⑧★Mr. Hyuk Lee (South Korea): Evening Session, 16 July
Hyukは2014年にYouTubeチャンネルを開設しており、CH登録者数は964人。動画は190(うち、一部は兄弟のバイオリニストの動画や合奏動画も含む)もアップロードされ、10ほどのショパンの曲も含まれているものの、動画は古い。新しい動画だと、2020年7月にモスクワで録音されたShigeru Kawaiで弾くノクターン第13番Op.48-1が比較的音のクオリティが良い。2018年には第10回浜松国際ピアノコンクールで3位に入賞している(牛田智大さんが2位)。この時にはショパンを弾いていない。また今年のエリザベート王妃国際音楽コンクールに出場しているが、こちらでもショパンを弾いていない模様。
⑨★Mr. Bruce (Xiaoyu) Liu (Canada): Morning Session, 17 July
BruceはYouTubeチャンネルを2011年に開設し、442人のCH登録者数がいるにもかかわらず、動画は1つも上げられていない(笑)彼は1980年のショパコンでアジア人で初めて優勝したダンタイソン(今回のショパコンの審査員の1人)に師事している。数々の国際コンクールで入賞しているようだが、ショパンを弾いている動画は見当たらなかった。こういう出演者も存在するということで、この記述を残したい。
【2021.10.5追記】その後、YouTubeを探したところ、Bruceではなく、Liu Xiaoyuの名で、2017年のルービンシュタイン国際ピアノコンクールでの演奏動画が10本見つかった。ベートーヴェンはワルトシュタイン、2本のコンチェルト等がある。音楽ライターの高坂はる香さんは、「仙台コンクール、入賞者こぼれ話」の記事で仙台国際音楽コンクールピアノ部門で4位になったBruceにインタビューをしており、19歳の素顔が窺える。
⑩★Mr. Viet Trung Nguyen (Vietnam/Poland): Morning Session, 18 July
Vietは2013年にYouTubeチャンネルを開設し、CH登録者数は39人。動画は6つアップロードされており、5つはショパン。その他の動画は、Chopin Instituteのサイトの週末のコンサートで、最近のものだと2021年5月に演奏されたものである。ノクターンOp. 27 No. 2、前奏曲Op. 28 No. 17-24、ポロネーズOp. 53「英雄」を弾いている。彼は自国含め8か国での演奏経験を持ち、ブレハッチと同じくKatarzyna Popowa-Zydroń(今年のショパンコンの審査委員長)に師事している。
この記事の続きはこちらに纏めている。前回ファイナリストのGeorgijs Osokinsの過去の演奏動画に惹き込まれ、彼に若干傾倒気味の内容となっている。