無理強い

電車の座席に座って、本を読もうとした。
いつも通り、イヤホンを耳につけて音楽配信アプリを開く。
曲を流そうとした時、ふと横の若い男女の会話が耳に入った。
「この前〇〇ちゃんに会ったんだけど、その子韓国めちゃ好きで」
「最近韓国って人気だよね」
再生ボタンを押さずに会話を聞いた。
「そうそう、その子、韓国語読めるし喋れるし、聞けるし書けるぐらいペラペラでさ」
「めっちゃすごいじゃん、日本人だよね?」
「そうなんだけど、留学してたわけじゃなくて、韓国ドラマ観まくってたら、気づいたら喋れるようになったんだって」
「天才じゃん。海外の人が日本のアニメで日本語学ぶみたいなことか」
「インスタとかも、全部韓国語で「これって日本語でなんて言うんだっけ?」って言っちゃうぐらい」
「もう純韓国じゃん」

ここまで聞いて、再生ボタンを押した。
終始2人ともにこやかで、盛り上がってる雰囲気だった。
本の内容が頭に入ってこない。
読むと聞くはインプット、喋ると書くはアウトプットだからそこでくくってほしい。
純韓国じゃなくて、純コリって言ってほしい。
「いや純ジャパみたいに」って言ってほしい。

一つも笑うところないのに、にこやかに盛り上がらないでほしい。

少し本を読んで、停止ボタンを押した。

男の方が免許証を2枚取り出して、一枚の方に穴が空いてるのを女の方に見せていた。
免許更新に行ってきたようだった。
そこまで穴に触れることはなく、自分の名前の由来をつらつらと語り始めた。

「この免許証は、はらぺこあおむしに食べられた」って言ってほしい。

キラキラネームはいつからか、審査が必要になって通りにくくなる、という話になった。
女の方が、「聞いた話なんだけど、「はなこ」って名前の子がいて、その子のお母さんがどうしてもアルファベットのAに、子どもの子で「はなこ」にしたくて、A子で「はなこ」って読む子がいるらしいよ」と言った。

きっと男の方も私と同じで、頭に大きな?が浮かんだのだろう。
さっきまでは、女の話に間髪入れずに、相槌を打ったり笑ったりしていたのに、少し間をおいて「え、AってこのA?」と空中に書いてみせた。
「そうそう、そのアルファベットのA」
「まじで?すごいじゃん。少女Aみたいで」

そこで乗り換えの駅に着いてしまった。
ちょっと、おもしれえじゃねえかこの野郎。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?