"音楽で人助けする"音楽療法士の働き方とは? リョウヤミュージックフィールド 田口諒也
皆さんは「音楽療法士」という職業を知っていますか?
音楽療法士とは、音楽の持つ力を使って子どもの成長や障害者・高齢者の健康回復を支援する職業です。
秋田県大館市の田口諒也さんは、音楽療法士の資格を持ち、その技能を生かして多様な悩みを持つ方の手助けをしています。
田口さんの活動に興味を持った取材班は、音楽療法を行う現場に同行し、お話を伺いました。
《名前》田口 諒也(たぐち りょうや)
《年齢》33歳
《出身》秋田県 大館市
《経歴》昭和音楽大学 音楽療法コース卒業。県外への就職が決まっていたが、喫茶店を経営していた父が亡くなり帰郷。家業を支えながら音楽活動を続ける。現在は独立し、音楽療法士として保育園や学校などに出向いて音楽療法を行うほか、音楽教室「リョウヤミュージックフィールド」でピアノやドラムなどのレッスンを行う。
音楽療法との出会い
― 田口さんは音楽療法士として、どのような活動をしているんですか?
僕は「困ってる方を音楽の力で助ける人」として、大館市を中心に活動しています。ここでいう「困ってる方」というのは、ADHDなどの発達障害による先天的な悩みを持つ方、認知症やうつ病などによる後天的な悩みを持つ方のことです。音楽や楽器を使い、理解・判断の認知機能の改善やコミュニケーション能力の向上など、目的に合わせて音楽療法を行っています。
― 音楽療法士を目指したきっかけは?
母がピアノ教室の先生で、母に言われて音楽をやっていたのですが、当時はあまり好きではありませんでした。ですが、高校生の時に好きだった子が吹奏楽部に入部したので、僕も一緒に入部したんです(笑)。それでも音楽は苦手なままでしたが、たまたま見つけた、『歌声が心に響くとき』という本が面白くて。「この本を書いた人に会いに行きたいな~」って興味がわきました。後から気付いたんですけど、その本は音楽療法について書かれていたんです。
<田口さんが音楽療法へ興味を持つきっかけとなった『歌声が心に響くとき』>
それまで僕が知ってた音楽はキラキラしているイメージだったんですけど、この本では「太鼓をたたくから人が集まる」とか「モヤモヤしている気持ちを音楽ですっきりさせる」という原始的な部分をリハビリテーションなどにつなげてて、すごいなって。
― それから音楽に興味を?
そうですね。吹奏楽部で「下手でもできる楽器ないかな~」と探していたら、ドラムを見つけて。ドラムって他の楽器と違って、たたけば音が出るじゃないですか(笑)。 「ドラムって僕にぴったりじゃん!」って思って。そこから少しずつ、打楽器に興味を持つようになりました。
音楽に導かれる人生
― 音楽療法と、自分にぴったりな楽器に出会った高校時代。それから音楽大学へ進学した決め手は何でしょうか?
高校時代に興味を持った『歌声が心に響くとき』の著者・久保田牧子さんが、当時、昭和音楽大学で先生をしていたので、この人から音楽を学びたいというのが強かったです。そしてたまたまなんですけど、自宅に大学のパンフレットがあって。頼んでもいないのに 母が勝手に資料請求したと思ってたら、実は母が昭和音楽大学の出身で、パンフレットは卒業生に送られてきたものだったんです。分かったときは「これ、母のかよ!」ってなりました(笑)。
― 点と点が線でつながったみたいですね~。
そういう経緯もあり、志望校はそこしかなかったです。大学で久保田先生の授業を受けたときは「あの本の人だ~!」ってなりましたね。
― 音楽療法を学ぶ現場って想像できませんが、具体的にどんなことをするんですか?
1年目は音楽療法についての知識を学び、2年目からは認知症や統合失調症の方、うつの傾向が強い方など、あらゆる悩みを抱いている方々への実習がありました。
― 一人ひとり悩みは違ったと思いますが、大変じゃなかったですか?
僕はそれが面白いって思うんですよね。実習では子どもたちのいる病院や施設に行ったんですが、中には僕のように歌やピアノが苦手な子もいました。なので僕の実習は、「うまく歌ったり演奏したりしなくてもいいから、太鼓を持って踊ろう!」というスタイルで進めていました。音楽療法は答えが1つしかないテストとは違います。相手と触れ合いながらその人にあった答えを見つけていけたらなって思ったんです。
音楽は人を変える
子どもを相手に実習していた時、親御さんから「この子がほかの人に抱っこされてるの初めて見ました!」と感謝されたことがあります。実は、触られるのを嫌がる子だったようですが、僕の実習では一緒に触れ合いながら楽しめたんです。それからカルテに書かれている症状でも、音楽で乗り越えられることがあるって思うようになりました。
― 音楽が人を変えた瞬間を目の当たりにしたんですね。
その瞬間が面白いんです!やっぱり、音楽を提供する自分自身が楽しんでいなければ、「大人はつまらない」って子どもたちは見抜いてくるので、とにかく楽しむことを意識しています。
<2021年10月に行われた「花輪さくら保育園」での音楽療法活動>
花輪さくら保育園では、子どもたちにフライパンを持たせ、ほかの子たちにたたいてもらうなどして「音」によるコミュニケーションを取ってもらいました。みんなが楽しんでいる輪に入りたそうだけど入っていけない子がいたら、音楽で輪の中に引っ張ってあげたり、こっちから迎えにいってあげるイメージで進めましたね。いつも言葉だけじゃなく、人が本来持っている原始的な「楽しい」という感情を大切にしながら進めています。
<持参した楽器を子どもたちに自由に触らせ、負けじと音を出す田口さん>
<フライパンを持って、音楽に合わせてたたいてもらった>
― 子どもたちに自由に楽器を触らせるんですね。
依頼先によって違いますが、基本的には子どもたちの行動に任せることが多いです。僕が音楽を始めた時、お稽古でやらされてたピアノはつまらなくて...。だから音楽療法の時間では、子どもたちにお稽古をするつもりはなくて、音楽を通して知らないものに出会ったり、直感的に音を出してもらったりすることを意識しています。
音楽の授業では、1人が好き勝手に楽器を鳴らしていたら止められちゃいますよね?だから僕が楽器を持っていった時は、思う存分暴れてほしいんです。それぞれの家庭にいろんなルールがあると思いますが、楽しむことに夢中になってる子どもたち、すごくいい顔してますよ。
<子どもたちに自由に触ってもらえるよう、たくさんの楽器を用意する>
楽器は心の声を伝える
― 田口さんは学校の授業とはまた違う、「大切なこと」を伝えているんだと思います。
子どもたちには音楽の授業では体験できない、僕の好きな"はじけるような音楽"を渡したいと思ってます。
子どもの頃、僕は音楽が好きだけど、音を出すのが苦手でした。楽器といえばピアノしか触ったことが無かったし、歌は音痴だし...。母が声楽をやっていたこともあり、余計にプレッシャーも感じていました。
悩んでいた時に、僕の"心の声"を代弁してくれたのが楽器でした。なので悩みを抱えてる方へ、「心の声の代わりに楽器はいかがですか?」という提案を、僕の音楽療法の時間やリョウヤミュージックフィールドでしていきたいと思っています。
<リョウヤミュージックフィールド(大館市)の室内>
<田口さんが好きな打楽器も置かれている>
― 今後のビジョンを教えてください。
今の活動をずっと続けていきたいです。子どもたちは僕にすさまじいエネルギーでぶつかってきてくれるので、真正面から同じパワーで押し返してあげたいですね。あとは、心の持ちようですね。子どもたちが持っている音楽を通してキラキラと楽しむ心を、自分も持ち続けていきたいと思っています。
【リョウヤミュージックフィールド】
《住所》秋田県大館市常盤木町12-28
【取材・文:秋田ブロガー兼YouTuber じゃんご】https://dochaku.com/
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