酒店の息子が糀を使ったノンアルコールドリンクを作った理由。株式会社エス 秋元衆平
2021年12月、秋田県産の糀(こうじ)、米、水だけを使って作られた新しいノンアルコール発酵飲料「KOJI CLEAR(コージクリア)」の一般販売が始まりました。
「飲む点滴」と言われる甘酒の製法を進化させたことで、甘酒とは違ったフルーツのようなスッキリとした酸味の中に、上品な甘さを感じる仕上がりになっています。
<これまでになかった"新しいノンアルコールドリンク"として注目を集めている>
開発したのは、大仙市出身の秋元衆平さん。KOJI CLEARの開発や会社の運営資金は、秋田県が独自に実施する「若者チャレンジ応援事業」やクラウドファンディングを活用して調達しています。今回のあきたびじょんBreakでは、「KOJI CLEARを作ったきっかけ」や「ノンアルコールドリンクへのこだわり」などを取材しました。
《名前》秋元 衆平(あきもと しゅうへい)
《年齢》37歳
《出身》秋田県 大仙市
《経歴》大学卒業後ロンドンへ留学し、語学を学びながら現地の日系出版社に勤務。帰国後は、PR会社や月面開発スタートアップを経て、2020年4月独立。株式会社エスを立ち上げ、「KOJI CLEAR(コージクリア)」の製造・販売を行う。実家は大仙市のアキモト酒店。
新しい発酵飲料 KOJI CLEAR
― KOJI CLEARのコンセプトを教えてください。
糀を使った「新しい発酵飲料」です。分かりやすいように「コージドリンク」とも呼んでいます。糀と米と水を使い、甘酒と似た製法で作っていますが、ノンアルコールで、甘酒が苦手な方でも飲みやすいようスッキリとした味わいに仕上げました。
― 甘酒と似た製法とのことですが、甘酒とはまた違うのでしょうか。
そうですね。どぶろくをこすと日本酒になるように、KOJI CLEARは甘酒をこして作っています。原材料に「あめこうじ」と「白糀」という2種類の糀を使用しているのですが、そもそも「2種類の糀を組み合わせた甘酒を作る」という発想は誰にもなかったようです。しかも、「その甘酒をこして透明のノンアルコールドリンクを作る」なんてことはますます誰もやらなくて。秋田清酒さんに初めて製造をお願いしに行ったときは、びっくりされました(笑)。
<“刈穂”と“出羽鶴”の酒蔵を有する秋田清酒株式会社が製造する>
― どうしてこのドリンクを開発しようと思ったのですか?
最初は「自分が元気になれる飲み物が欲しい」と思ってですね。もともとエナジードリンクのプロモーション会社で働いていたので、そういった飲み物が好きでした。ですが人工的に作られた飲み物って、ずっと飲み続けるのはつらいなと感じていて...。
それから「自然な素材」や「信頼できる原料」を使ったドリンクを飲みたいと思うようになり、それなら甘酒がいいなと思ったんです。でも甘酒は、がっつり甘いし、ドロドロしてて飲みにくい。そこで、自分で糀や米、水の分量などを変えながら200回ほど試作し、KOJI CLEARのレシピ開発に至りました。
― 秋元さんがレシピを開発できたのは、ご実家が酒店であり、ノウハウがあったからでしょうか。
ノウハウは全然ありませんでした。自分で「甘酒の作り方」と検索して甘酒を作って、そこからいろいろ味を調整したんです。そしてできたレシピを秋田清酒さんに持って行き、「これを作りたいんです!」と言ったら驚かれましたが、それでもこうして製造してくださっているので、うれしく思います。
― 酒蔵の方たちにも試飲していただいたそうですが、反応はいかがでしたか?
皆さん「おいしい!」と言ってくれましたね。特に女性の方が「これいいね!」と言ってくれたので、酒蔵の方がそう言ってくれるなら、一般の方に向けて販売しても喜ばれるなと手応えを感じました。
おいしい飲み方
<取材日は「KOJI CLEAR POP-UP TOUR」がマザー食堂(秋田市)で行われていた>
― どんな方からの反響が多かったですか?
女性からの反響が多く、20~40代くらいで、健康に気を使っている方から人気があります。あとは、普段からお酒を飲む方の反応もいいですね。「最近、禁酒してます」という方の反応も良かったです。
― おすすめの飲み方を教えてください。
朝、ストレートで飲んでもらうのが1番ですね。KOJI CLEARの成分には脳の働きが活発になると言われているブドウ糖が多く含まれているので、飲むと脳がシャキっと起きます。
アルコールが好きな方は、お酒と割って飲むのもおすすめです。日本酒とKOJI CLEARは原料が同じなので、よくなじみ、飲みやすくなります。甘さと酸味も加わって、グビグビいけちゃうので注意が必要ですけど(笑)。
― 試飲してもいいですか?
どうぞ!
― めちゃくちゃ飲みやすい!「甘酒」というイメージがあったので、とろみがある感じなのかなと思ったら、果汁ジュースのようにスッキリしています!
<雑味がなくスッキリとした口当たり>
― 秋元さんが言ったとおり、朝にぴったりのドリンクだと思います!
冬の寒い時期はホットもいいですよ。温めるとホットレモンのような味わいになります。酸と糀の香りが立ち、朝に飲むと心も温まります。
<食事とも相性が良く「ノンアル日本酒」と呼ばれることも>
売れる確信はどこから?
― KOJI CLEARが販売されて数週間経ちましたが、どれくらいの本数が売れたのか気になります。
クラウドファンディングの返礼品も合わせると、2000~3000本ほどですね。実家のアキモト酒店にも販売日から並べていたのですが、すぐに売り切れちゃって。他の店舗からも「全部売り切れました!」という連絡が来ています。
― すごいですね!この売れ行きを予想していましたか?
「作れば作った分だけ売れる!」という自信はあったので、酒蔵さんにはどんどん作ってくださいとお願いしたのですが、最初はどれだけ売れるか分からないということで、今はお試しの本数しか用意できていないんです。今後は作ったら作った分だけ売れる状態をキープしていきたいですね。
― 「売れる」という確信はどこから?
今の世の中、健康意識が高まってきているじゃないですか。健康になるためにどういう食事や飲み物が必要か…と考えたときに、自然な原材料だけを使っていて体にも良くて、ノンアルコールでっていうと「なんかこれ、いいかも」と思っていただけるのかなと。あとは試飲会を行ったところ、ユーザーさんから好評だったことも大きいですね。
― KOJI CLEARを開発するにあたり、挑戦する若者を秋田県が支援する「若者チャレンジ応援事業」を活用していましたね。
この事業にはかなり助けられました。なんせ僕の場合は特例(※)で採択され、補助率が10/10でしたので。バックアップ体制も充実していて、KOJI CLEARの開発や会社の運営に関する相談をさせていただいたり、人の紹介もしていただき助かりました。
※特例とは
3年間の補助総額を200万円から400万円まで、補助率を3/4から10/10まで引き上げるもの
― どんなところにメリットを感じましたか?
創業当初や何かスタートするときの資金って、銀行や投資家さんなどは事業が成功するか分からず、怖くて出せないんですよね。ですが若者チャレンジ応援事業は、「何かやりたい!」と言った人に対してまとまった資金も提供してくれる仕組みなので、とても助かりました。あの事業があるから若者はチャレンジできるし、チャレンジしたいという若者が増えているのだと思います。
地元のために貢献したい
<秋田清酒株式会社で酒造りの工程を学び、もろみをかき混ぜる体験をした秋元親子>
― 糀を使ったノンアルコールドリンクにこだわった理由は?
自分自身がお酒がそんなに得意じゃなかったのと、日本酒業界の売り上げが厳しいということもあって、開発するのはお酒じゃないなと。でも日本酒を造る技術や文化、ノウハウってすごく大事なものですし、将来の子供たちが「自分も日本酒造りたい!」とか「農業をやりたい!」となったとき、選択肢として残るようなことをしたかったんです。なので、日本酒を造る技術を使って、地域に貢献できるようなものがいいと思い、KOJI CLEARができました。
― 秋元さんは東京と秋田の2拠点で働いていますが、地元のことは意識しているのでしょうか。
意識してますね。僕は秋田が好きなんですけど、県外の人からは「秋田ってどこにあるかも分からないし、情報も少ないし…」と思われていると感じていて。なんでかな?と考えたとき、秋田の人はコミュニケーションをとるのが苦手だからという、自分の中の結論があるんです。中学生の頃にメディアに興味を持ち「だったら僕が発信する側になろう!」というように、どうやって地元に貢献するのかをずっと考えていたんです。
また、自分が知っているコミュニティーや家族など、周りの人たちとの関係を維持したかったという思いもあります。やっぱり地元って"帰る場所"じゃないですか。帰る場所がなくなるのは嫌なので。この子(KOJI CLEAR)が世の中に出て、どこで作られたとか関係なく売れてくれたら、地元の作ってくれる酒蔵さんや販売してくれる酒販店さんにもお金が落ちますよね。「この子さえ売れてくれればお金が地域に回る」...。そういう事業モデルを生み出したかったんですよね。
― 今後のビジョンを教えてください。
KOJI CLEARをより多くの人に飲んでいただける環境、販売のネットワークや製造体制などを整えていきたいです。まずは東京など首都圏へ展開し、ゆくゆくは海外まで販売エリアを拡大していきたいと思っています。また、KOJI CLEARの炭酸入りや、レモン、リンゴ、梅などのフレーバーの展開も考えています。この商品を通じて地元に少しでも貢献できるよう頑張っていきたいですね!
【株式会社エス】
《住所》秋田県大仙市神宮寺字神宮寺162(本店)
《HP》https://www.kojiclear.com/
【取材・文:秋田ブロガー兼YouTuber じゃんご】https://dochaku.com/
県公式Facebook、Twitterにも取材の様子や裏話を掲載しているので、よろしければご覧ください。
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