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地魚で漁師の未来を切り開くため、俺は今日も漁に出る。秋田金浦漁港 四代目松宝丸 佐藤正勝
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「地魚を食べようキャンペーン」実施中!
2023年1月中旬。あきたびじょんBreak取材班は、肌を刺すような風が吹く金浦漁港(にかほ市)に。ここから見える鳥海山は絶景でした。
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雪化粧した鳥海山に見とれていると、深夜に出港した漁船が帰ってきました。
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「松宝丸(しょうほうまる)」と書かれた全長20メートルある漁船から降りてきたのは、船長の佐藤さんです。
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《名前》佐藤 正勝(さとう まさかつ)
《年齢》52歳
《出身》にかほ市
《経歴》高校卒業後、地元のガソリンスタンドに勤務するも、「この先どんなに努力しても社長にはなれない」と感じ、20才で家業である漁師へと転身。現在は父から受け継いだ「松宝丸」の四代目船長を務め、金浦漁港から漁に出る。
金浦漁港でとれた海の幸
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この日、とれたのは、マダラやホッコクアカエビ(以下、甘エビ)、本ズワイガニなど。とった魚は帰港してすぐに船員が計量し、漁協内の競売施設へ運搬され、その日のうちに競りにかけられます。
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競りといえば早朝に行われるイメージですが、秋田県では夕方に行われる「夕競り(ゆうぜり)」が多いようです。夕競りを終えた魚は仲卸業者によって県内外へ運ばれ、翌日には小売業者や青果店・飲食店、消費者へと届けられます。
ガソリンスタンド店員が漁師に
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― 佐藤さんが漁師になったきっかけを教えてください。
高校を卒業した時はバブル期で、1万円札をちらつかせてタクシーを止めるっていう景気が良い時代だったな。職業は「きつい」「汚い」「危険」で3Kといわれた第一次産業より、もっと楽な働き方を選択する人が多かった。俺も、家業の漁師を継ごうなんて、最初は思ってなかったし。
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高校を卒業して、地元のガソリンスタンドに就職したんだけどね。いくら成果を上げても、社長から「ありがとう」って感謝されるだけだったから、「この先どんなに頑張っても、社長にはなれないだろうな」って悟ったんだよ。それが、家業に目を向けるきっかけだったね。
親父に「船乗っかなー」って言ったら、急に跡取りができて嬉しかったんだろうね。「いますぐベンツ買ってこい!」ってお祭り騒ぎになってさ(笑)。それから親父が引退して、今は俺が松宝丸の四代目船長をやってる。でも結局、ベンツは買ってもらえなかったけどね(笑)。
秋田県でとれる魚、知ってますか?
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― この時期はどんな魚がとれますか?
マダラ、ヒラメ、甘エビ、本ズワイガニ、アブラツノザメだね。
― 秋田県でもヒラメや甘エビ、本ズワイガニがとれるんですね。
知らなかったでしょ?秋田県内ではハタハタやマダラなど、有名なものだけがスーパーに並んで、ほかの魚のほとんどは県外に納品されるからね。
逆に、レストラン、総菜屋、居酒屋など飲食店に自分の魚を出して、食べてもらったほうが、県内の人に分かりやすくPRできると思って、魚を直接配送して「地魚を使った料理」をお店に提供してもらってるんだよ。
佐藤さんが取材用にと、昨日水揚げしたマダラを持ってきてくれました!
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― 佐藤さんは魚もさばけるんですか?
漁師になって1年目は船の上でごはんを作らなきゃいけなくて、先輩から調理やさばき方を学ぶんだよ。とはいっても、俺は漁師だから料理人のようにうまくできないけどね。
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普段、漁師たちが船の上で食べる魚の味噌汁や醤油汁には、雑魚(ざっぱ)も入れて全て食べきるんだよ。だから、捨てるところがほとんどない。船の上で手の込んだ料理はしてられないんだ。
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佐藤さんがさばいたこのマダラを使い、いつも魚を卸している地元飲食店で「マダラ料理」を作っていただけることに!
マダラ料理を食す
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由利本荘市内の居酒屋で、佐藤さんがさばいたマダラを使った料理をいただきます!
まずはじめは、マダラのブイヤベースです。
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※ブイヤベースとは
フランスなど地中海沿岸地方で作られる魚介類の鍋で、もともとは漁師がとれたての魚を大きな鍋に入れて作った料理といわれています。
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一口サイズに切られたマダラはぷりぷりとした食感で、甘エビの頭をふんだんに使った魚介スープは具材にまで染みわたり、心も体もぽかぽかに。
続いて、マダラを使ったポテトサラダ。
ソテーしたマダラを混ぜた料理。マダラはクセがないため、ポテトサラダになじんで食べやすく、箸が止まりません!
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上品な味で、熱を通しても硬くならないのがマダラの特徴です。家庭料理でも使いやすい魚なので、皆さんも挑戦してみてください!
<地魚を使った料理に挑戦してみませんか?>
秋田県は、地魚の認知度向上と消費拡大を目的として「地魚を食べようキャンペーン」を開催しています。リンクには、マダラ料理のレシピ集が掲載されています。
【リンク:秋田県】https://www.pref.akita.lg.jp/pages/archive/70001
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また、「ポケットマルシェ」を使って新鮮な魚を消費者に届けるなど、皆さんに秋田県の魚を食べてもらえるような取り組みにも、力を入れているんだよね。
「ポケットマルシェ」とは?
農家や漁師の方が簡単に生産物を直接販売できる。ネット上のマルシェ(フランス語:「市場」の意味)。佐藤さんをはじめとする県内の漁師からも新鮮な魚を購入することができる。ポケットマルシェで注文を受けた魚は、とったその日の夕方頃に配送センターで出荷手続きを行う。翌日には全国の消費者へ届けられる。※一部地域を除く
【リンク:佐藤さん販売ページ】https://poke-m.com/producers/59013
― 実際にポケットマルシェを活用してみた感想は?
ポケットマルシェを活用し始めたのは、ちょうどコロナ禍の頃だったね。魚をとってきても、飲食店などの需要が減っているから高い魚がやっと安く売れる状況で、いつもの販売ルートだと買い取ってもらえなかったんだよね。それでオンライン販売に挑戦してみたんだ。
手始めにいろんな魚をまとめたセットを1,980円で出品してみたら、想像以上に売れて!その時は梱包や配送手配が1人だけでは追い付かなくて、家族や近所の方に手伝ってもらって、全国の方に秋田県の魚を届けることができたんだよ。
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ポケットマルシェには、旬の魚や未利用魚(※)などを出品。本ズワイガニの産地とされる地域から「秋田県の本ズワイガニのほうがうまいよ!」と連絡が来たりするんだよね。運営会社に「ハタハタは秋田の人しか食べないので、売れません」と言われたけど、実際には、県外に住む秋田出身の高齢者などから「ハタハタおいしかった!」という嬉しい声が直にたくさん届くので、漁の励みになっているよ。
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※未利用魚とは
釣り上げても市場に卸さず処分される魚のこと。
主な理由は、
・採算が取れる量の水揚げができなかったから
・サイズがまとまっていないから
・魚体に傷が付いているから
…など。
「おいしくない」という理由で処分されているわけではない。
このおいしさを広めるために
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― 佐藤さんが思う、地魚の魅力は?
鮮度が良くておいしいのが当たり前。鮮度が良いからいつ食べてもおいしい!それが地魚の魅力だと思うよ。でも、地魚を食べる機会って、少なくなってきているよね。秋田の皆さんにも、秋田の魚を食べてほしい。今は県内の小売りの90%の店で県産の鮮魚が売られていないんじゃないかな。もし、県内で水揚げされる地魚を全て県内消費できたら、県内の漁師は全員潤う。自分だけの魚を売りたいんじゃなくて、秋田県の漁業の底上げをしたいんだ。それを実現させるために、オンラインでの販売や冷凍自動販売機での販売などの取り組みに挑戦しているんだよ。
漁師が漁に加えて、梱包や発送の手配、プロモーション活動をするのって結構大変なんだよ。でも俺は、「秋田県の魚を皆さんに食べてほしい」という目標があるからね。いろいろ工夫して、実現させたいね。
【直売会イベントのお知らせ】
皆さんに秋田の魚を食べてもらうため、ネット販売だけでなく、漁師による直売会も開催します。とれたての海の幸を前に、漁師との会話も楽しみながら買い物をしてみてはいかがでしょうか。知らない魚や新たな料理方法に出会えるかもしれませんよ。
開催日:令和5年2月13日~ 26日の土日祝日
*荒天の場合は中止になるので、秋田県漁協の Facebook でご確認ください。
場 所:秋田県漁業協同組合 南部支所(荷捌所)
(にかほ市金浦字塩焚浜番外地)
問合先:0184-38-2210(秋田県漁業協同組合 南部支所)
撮影協力:秋田県漁業協同組合、秋田金浦漁港四代目松宝丸、マナイタ(※順不同)
[聞き手:じゃんご / 秋田ブロガー兼YouTuber]https://dochaku.com/
新聞広報「あきた県広報」https://www.pref.akita.lg.jp/pages/archive/64492#202302