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[詩編] タマルとアムノン 

月は空を巡る。
水のない台地、夏はトラの掃く灼熱の息のように巻き散らかされ、
その中でおれは身を焦がす。
おお、タマルよ。おまえはなぜ妹なのだ。
タマルよ・・・
大地は傷だらけの灼熱の白い光のなかで焦げていく。
おれも焦げてゆくのだ。
 
月は空を巡る。冷たいシターラの響きがきこえる。
私は踊る。
さあ、ハンナ、おまえも踊るのです。
 
タマルよ。おまえはまだ踊るのか。まだ俺を惑わすのか。
月にぬれたシターラにあわせて…
棕櫚の強い風。
氷ついた5羽の鳩。おまえの足元にいる。
硬い両方の乳房。冷たい腹。蛇のような腰。
おれを狂わすのか。
タマルよ。おまえはなぜ妹なのだ。
 
タマルよ。おれは、眠ることができない。
おれの中の押さえつけられた井戸。
水はあふれる。
坪の中でリンパ液が渦を巻く。
おれの中のコブラが歌をうたう。
おれは呻く。毎夜呻くのだ。
おまえのことを思って呻くのだ。
 
お兄様、わたしをそっとしておいて。
わたしはだれのものでもない。
あなたがわたしの背中につけた数々の口づけの跡は、
蜂たちの小さな羽音。ちいさな風・・・
 
タマルよ、おまえをおれのまなこから消してくれ。
おまえの両方の乳房の間で二匹の魚がおれを呼んでいる。
おまえの美しいひだ飾り、そのなかのおまえがほしいのだ。
タマルよ、おれは、おまえのものだ。
 
アムノンはタマルをおそう。
タマルの処女の血が太ももに流れる。
 
タマル様、タマル様、どちらにおられます。
これは・・・
 
ハンナ、どうした。何事だ。
アブラサム様。タマル様が・・・アムノン様に・・・
 
何だと! アムノンめ、なんということを・・・
自分の妹を手篭めにするとは。
まさに神をおそれぬ鬼畜の所業!
父、ダビデの子として生まれし我らだが、みな母はちがう。
しかし、タマルは俺の実の妹だ。
あの穢れなき処女(おとめ)を、汚れた野獣の角が汚したのか!
なんという暴虐、なんという無慈悲・・・!
おのれ、アムノンめ! 
ハンナ、アムノンはいずこだ!
 
は、はい。馬でお逃げになりました。
 
おれは、あの恥知らずを追う! 
ハンナ、タマルを、タマルを頼んだぞ!
 
ああ、ご兄弟でなんということが。
 
アムノン、ついに見つけたぞ! この不埒もの!
人の道にはずれた愚か者よ。死をもって神とダビデ王に償うのだ!
わが鉄槌を受けよ!
 
アブラサム、わが兄よ。もとより死は覚悟の上。
この焼け付くような胸のおもい、肉体のうずき、おまえにはわかるまい。
この愛を手に入れるためには、おれは神とも戦う。
タマルはおれの愛を受け入れた。
おもい残すことはない。
アブラサム、われを地獄に導け!
 
アムノン!神の裁きをうけろ!
 
・・・アムノンは死んだ。
         
アムノン・・・お兄様・・・
神よ。このような運命(さだめ)でなかったら、わたしは・・・
      
 ===== ガルシア・ロルカ 作 「詩編 タマルとアムノン」より
アムノンはイスラエルの王ダビデの長子。タマルはその異母妹。ダビデ王には八人の妻がいた。アムノンはタマルに恋し、暴行した後タマルの兄アブラサムに殺された。(旧約聖書 サムエル記) ======

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