ただ地獄を進む者が
本日、紅白歌合戦の曲目の変更が発表された。星野源の歌が「地獄でなぜ悪い」から「ばらばら」へと変更されたのである。
以前の記事でも書いたが、僕は源さんの曲で「地獄でなぜ悪い」が一番好きだ。
曲中では病床や教室にいる人たちが「ここは地獄だなぁ」と思っている。
この曲は「そこから逃げてもいいんじゃない?」「君には君の居場所があるよ」などと優しく肯定などしてくれない。
そもそもこの世は地獄。
『生まれ落ちた時から 逃げ場などないさ』
『生まれ落ちた時から 居場所などないさ』
嘆いても現実は何も変わらない。
だからこの曲の主人公は嘘や妄想の世界に逃げ込んでいく。この曲はその行為こそ力強く肯定してくれる。
『嘘で何が悪いか 眼の前を染めて広がる』
そして苦しみながら悶えながら、嘘や妄想で自分の傷を誤魔化しながらそれでも地獄のような世界で進む意味を伝えてくれる。
『ただ地獄を進む者が 悲しい記憶に勝つ』
この今の時代にピッタリな隠れた名曲を弾き語りで披露すると知った時は本当に嬉しかった。久し振りに紅白歌合戦が楽しみになった。
そこからだった。この曲を歌う事の是非が問われる自体になったのである。
詳細はここでは記さないが、ざっくりとまとめる。この曲は映画『地獄でなぜ悪い』の主題歌である。その監督が性加害問題で現在係争中の人物なのだ。それを受けて、この歌を紅白という大舞台で歌う事の是非について疑問が示されたのである。
Xを開くと多くの意見が広がっていた。曲の素晴らしさを語る者、被害女性の気持ちを慮る必要があるという者、そもそも映画と曲を分けて考えるべきだという者…。あちらこちらで意見がぶつかり、喧嘩の跡が見られる。
僕は少々疲れてしまった。あんなに楽しみだったのに。嬉しかったのに。でも二次加害に繋がるという意見も分かるような気がして。息苦しくなってしまった。
そして今日、曲の変更が発表された。
「ばらばら」の歌詞を見て、曲を聴いて、源さんらしいなと思った。源さんの今の気持ちがそのまま吐き出されている気がした。僕の気持ちも少し軽くなった。
それからしばらくして、源さんの曲を聴いた。シャッフル再生の一曲目が「地獄でなぜ悪い」。
一度は飲み込んだはずの息苦しさが込み上げてきた。寂しさ、悔しさ、無念さ…。この寂しさも自分勝手なような気がして。よく分からない涙がこぼれそうになった。
源さん、この世はやっぱり地獄です。
その地獄を僕は泥だらけになりながら血だらけになりながら進みます。
悲しい記憶に勝ちたいから。
今はただ、紅白歌合戦での格好いい演奏を楽しみに待っています。