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恥ずかしがり屋の立方体 #毎週ショートショートnote

「だって私、こんななりだから…」
「どうして?すごくユニークでインパクトあるよ」
男の熱い言葉に思わず俯く。だが実際には視線を下に向けただけだ。この体では関節など曲げられない。

「君は素敵だよ。四角いフォルムに白とブルーのツートンカラー。ぐっと目を引く黄色の唇。極めつけは手なのかひれなのか判らない、その…やっぱ手?ははは。いいよね、マジで」
「…ほんとに?」
男は大きく頷いた。
「もちろん。でも君は恥ずかしがり屋だから、なかなか心を開いてくれなくて…。見た目だけじゃない、僕はその…君の中身を知りたいっていうか…」
白い頬にほんのり赤みが差す。
「…本当にいいの?」
男はもう一度頷くと、そっと手を伸ばし…それが最後の記憶となった。

白と青の体が素早く二つに分かれるや、中から伸びてきた黒い手が男の腕を掴んで引きずり込む。
男は声を上げる間とてなく、再びハコはぱたりと閉じた。
「うん…まあまあ、かなあ…」

―その後の男の行方は、誰も知らない。


*この作品は、以下の企画に参加しております。

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秋田柴子
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