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記憶冷凍【毎週ショートショートnote】

「――被告を、記憶冷凍の刑に処する」

裁判官の宣告に、法廷中が一瞬しんと静まり返った。血の気の引いた被告人の顔は真っ白だ。それこそ冷凍されたかのように。

「嫌だ! それだけはやめてくれ!」

しわぶきひとつない法廷に血を吐くような叫び声が響き渡る。

「罪は悔い改める。謝罪も償いもする! だからそれだけは……!」

喚き続ける被告人が刑吏の手で法廷から連れ出されると、傍聴席から一斉にため息が洩れた。記者が慌てて外へ駆け出していく。

「意外に重かったな」
「弱い者ばかりを狙った卑劣な犯行だからな。だが……」

みな言葉を呑み込む。有罪を勝ち取った検事たちですら、その表情は固い。

22××年、とうの昔に死刑制度が廃止された今日の最高刑が、この『記憶冷凍刑』だ。犯罪の瞬間の記憶を抽出して冷凍し、来る日も来る日もその記憶を解凍しては脳内に蘇らせる。多くの受刑者は途中で自責の念に堪えられなくなるという。

「死んだ方がマシとは、こういうことを言うのかもしれんな……」

控室で法服を脱いだ裁判官が、ぼそりと低く呟いた。

(437字)


【あとがき】
いよいよ、今度の日曜が #文学フリマ東京38 です!
昨日出品物の発送も終わり、ちょっと呆けている秋しばです。そこで活を入れるために、今週も毎ショに参加。今回はちょっとシリアスに。
毎度文字数超過ですみません……

*この記事は、以下の企画に参加しております。

*なおこの作品は、死刑制度についての是非を問うものではありません。
ご承知おきくださいませ。


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秋田柴子
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