カミングアウトコンビニ【毎週ショートショートnote】
「――3番ね。うん、その左の」
僕は言われたとおり、3番の箱に手を伸ばした。
このお客さん、ここんとこ毎日3番買ってくな。
あれ、今日は店内の喫煙スペース直行か。相当溜まってるのかな。
「私も3番。あ、7番もお願い」
この人も直行組か……さっきの3番おじさんと何やら話してるようだ。
「――なんだい、あんたも3番か」
「そうなの。毎日毎日、子供に小言ばっかりで。怒っても意味ないって判ってるのに、つい……」
「無理ないよ。俺もさ、部下にキツく当たっちゃって。今時の若い奴には高圧的なモノ言い厳禁ってのは判ってるんだけど――ねえ、その7番ってどんなの?俺、3番の『キレ味』しか知らない」
「これ?『仕返し味』。同居してる義母がムカつくから、わざと日付の古いパン出しちゃったの」
「あれあれ。ま、そんなこともあるか」
――ここはカミングアウトコンビニ、誰にも吐き出せない思いを煙にのせて放つ店。
いらっしゃいませ、お客さん。さて何番に致しましょう?
【あとがき】
実際にコンビニや喫茶店で「いつもの」しか言わない人は、店員さん泣かせだという話をよく聞きます。でもこの店で「いつもの」は、ちょっと恥ずかしいかもしれませんね。
自分で書いておきながら、他のラインナップが気になって仕方ないです。「ミス味」とか絶対ありそうですね……。
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