不意に人のいとなみを愛でたくなるなど
入江喜和先生はちょいちょいバズーカ砲を打ち込んでくる漫画家先生だよ、全く。入江先生といえば、たぶん「のんちゃんのり弁」が最初にドラマ化されたのでスマッシュヒットってことになるのかな?と思うのですが、自分にとっては「おかめ日和」が最初のバズーカ砲です。
当時クソガンコな偏屈なだいぶ年上の人に惚れ込んでいたため(今の家人ですが)、とんがりまくってこじれまくった中年であるところの岳太郎にどこか面影を見ていたのでしょう。いまでいうところのモラハラで経済DV(本当に貧乏だが)なところがある岳太郎だけど、初恋の人だもんね、やすこさん…みたいな家族の話なのですが、とにかくしっかりとした世界観が確立されていて、本当に亀田一家が東京の下町で暮らしていそうな気がしたものです。
んで、その後の連載が「たそがれたかこ」で、こちらもアツかった。なんにせよ、あんまり輝いていない中年女性のリアルさを描く能力の凄さよ。この作品では、衝撃の中年女性、中学生男子にときめくをやってのけ、そしてしっかりキモがられ、でもまあ、人生そんなこともあるよね…という気持ちになったものです。これも東京のお話。
その後が、「ゆりあ先生の赤い糸」。これもまたすごい話でねえ。本当はわりと女性的な性格のゆりあさん(つっぱってつっぱって強がって、江戸っ子男子みたいになって頼りにされまくるし、実際、「ええい!私に任せとけ!」みたいな度量のある主人公)の夫が、浮気相手と逢瀬中に脳出血で倒れ意識不明+要介護状態に…なったのはともかくとして、浮気相手が男だったからびっくり仰天で……というところから始まる話で、これも本当にすごい。ギリギリリアル。いや、むしろ事実は小説より奇なりぐらいの絶妙なセンの話。菅野美穂さん主演でドラマ化されて、これがはまり役。ついでに言えば、チェイサーゲームWに出会ったのは、Tverで「ゆりあ先生」を見ようとしたことがきっかけね。これも東京のお話。
入江喜和先生の作品のすごいところの1つは、LGBTQ+クラスタがナチュラルに世界に存在していて、登場人物として本当に自然に物語の中にいるところ。マジョリティ側のとまどいもリアルだったりして、そこも良い。
んで、今年は画業35周年らしく(おめでとうございます!)、BELOVEでは連載中の「みっしょん!」とショート漫画の二本立てだわ、Jourでは読み切りで登場してるわで、何なら読者が忙しい。
「みっしょん!」は、うすら社会人百合(いや、中年百合…?)の気配があって、これはこれで楽しみがマシマシですし、今月はとにかくこの読み切りのショートだよ!!!おかめから作品を読んできた中年としては、亀田家がー!!!たかこさんがーーー!ゆりあさんがーーー!ですよ。激アツ。
Jourの読み切りも入江先生らしい、日常の中のアレで、少しだけ苦くて、ほんのり切なくて、でも明日への元気が湧いてくるようなそんな作品に仕上がっていて、激アツ。
そんなわけで、近々人の金で上京する予定があるので、めっきり東京タワーに上りたくなってしまった(ので、カバー写真は高河ゆん先生から拝借)。街の灯を眺めると、東京に限らず、人のいとなみを感じて、人間嫌いの自分でも時にそのいとなみを愛おしく思えたりして。
東京の下町にきっと住んでいそうな、入江喜和先生の漫画の登場人物たちに思いを馳せたくなったのでした。