阿片窟へと走れ
仕事を終え、ランニングウェアに着替えおれは阿片窟へと走り出した。
阿片窟、これすなわち男性専用温浴施設のことである。
まんがの閲覧と飲食が許されたエリアにはリクライニングチェアがずらりと並べられ中高年男性たちがトドやアザラシの様に体を横たえ酒を啜る様を見ておれが命名した次第である。
リクライニングチェアにだらしなく横たわるものたちを見て恐れおののくダンテくんに向けてウェルギルウス先生はこう言うであろう。
「ここには見るべきものなど何一つない。」
と。
入館し、阿片窟常連勢との宴会を終えた深夜2時。
おれは手にしたまんがをサイドチェストの上に置き、リクライニングチェアにだらしなく体を横たえる。
週末のフロアに響き渡る鼾の轟音。
店員を呼ぶ呼び鈴が響く。
だらしなく、はしたなくチャーハンを食べながらまんがを読み続ける。
文さんみたいなお師匠、メンターが欲しかった。
でも身近にはいなかった。
古今の書物の英雄や詩人に憧れはしたが憧れるだけで何もしなかった。
そして気づく。
おれは若者を導いて然るべき年齢なのだと。
とても悲しくなった。