4次元のパン
5cm辺ほどの立方体パンの食べ方がわからない。手に取ってみて、口にしようとしてみて、ここから食べていいのかいつも戸惑う。
立方体ゆえにどれも同じ景色の頂点で、頂点の優先順位がわからなくなるのだ。
とりあえず任意の角をかじってみて、物足りなさにそのまま直下の角もかじる。
一辺がそのまま削り取られる。
その一辺を皮切りに、隣接する辺はもう辺ごと削り取る。
ちょっと大口すぎるかな、と思いながらも、辺を辺として処理してしまうともうそれ以降、パンの各頂点を捉えることができない。
点と点を繋げて線にしたあと、1次元から2次元を知ってしまった後は、次元は後退できないのだ。
欲深い人間よ。そこから先は3次元、つまり立方体パン丸呑みを知るのみだぞ。
1、2、3と来ると4、もあるのか。4次元パンがどんなものか(時間が経つごとに変化したり?そりゃ食べれば変化するし普通のパンじゃない?)などと哲学者然として思考に耽っているうちに、その立方体パンを平らげてしまっていた。
いつのまにか4次元のパンは出現し、僕はそれを消化してしまっていた。