ツァイ・ミンリャン最新作
最敬愛するツァイ・ミンリャン最新作 「あなたの顔 your face 」を見てきた。
極小の個を凝視すること。監督はこれまでと変わらぬ強烈な反世界の哲学で、まったく新しい「エンターテインメント」を作り上げた。
この映画をみたあとでは、ニンシキ、カンガエカタ、カチカン、などの安手の言葉の使用とは、金輪際おさらばしなければならなくなる。
ニンシキ、など、世界に存在しているのだろうか。揺るがされ、剥がされてしまい、ああ、ぼくはなにもかも間違えてきましたと白状したくなる、そんな映画だ。
なんということだろう。
顔には、すべてがある。
世界はそのままジオラマ化されており、川が流れ、噴火し、震動していた。
日々を営むということの底無しの悲しみ。人間は生活をやり過ごしているようで、そのじつ、ショリなんかひとつもできない生き物なのだ。監督はそのことを十全に証明してみせた。
人間はどんなことにも時とともに慣れる、というのは社会をケンゼンにマワスための真っ赤な嘘である。悲しみはほんとうはいっこうに晴れず、深く深く沈み、皮膚いちまいでひとしれず痙攣していたのである。
本作のテーマは、コロナ禍の今でも、じゅうぶんアクチュアル足り得ている。
「新しいルール作り」や「意見」もおおいに結構、けれども、人間のかたちとはここまでシンプルで、こんなに複雑で、ゆたかで、なんともまだまだ謎に満ちていたのだ。
もっともたいせつなことを、たいせつなぶんだけ語るツァイ監督!最高!
音楽は坂本龍一氏。