翔べ君よ大空の彼方へ 8-❻ ロンシャンの大空
彼が初めて目にしたのは、2人の男女が心配そうに見守っている姿であった。
彼は思った。
〝何をそんなに心配しているの?〟と。
横では、自身をこの世界に送り出してくれた母親が、優しくも厳しい眼差しで彼を見つめていた。
〝立ちなさい!〟
心の声に従い、彼は本能で生きる為の戦いに挑んだ。
立ち上がっては転び、再び立ち上がっては尻餅をつき、それでも彼は数分後に自力でその大地に、四肢を力強く打ち付けたのだった。
彼は辺りを見回した。
温かな視線と、母親の愛情が馬房の中に満ち溢れていた。
母親は生を掴み取った彼に、最初のご褒美を与えた。彼の体内に気力が、闘志が漲っていく。
やがて、1人の少女が目の前に現れた。
彼がその少女と目を合わせると、少女はニッコリと笑って、優しくその体を撫で始めた。とても愛しそうに。
その瞬間、彼は思ったのだ。
〝たくさんの愛情を注いでくれる人だ〟と。
彼は駆けた。
数え切れないほどのたくさんの愛情に囲まれて。
彼は駆けた。
それはいつしか、強さを求める為のものとなっていた。
先頭に立ち、仲間を導き、後方から仲間を鼓舞し、時には弾き飛ばす。
強くあれ!と厳しさを教えるかのように。
そして、彼は強さを手に入れたのだ。
広大な海を見つめ、あの先には何があるのだろう•••彼はいつも思うのだ。
何度も何度も海を見つめ、そして遂に見つけたのだ。あの海の向こうに。
最後の勝負だ。
出し尽くさねばならない。自身の体内に赤々と灯る闘志の炎。
今、彼は隣を走るライバルに火を付けられたのだった。
〝前へ!〟
彼は、すべての力を解放した。
肺が、心臓が、四肢が、悲鳴を上げる程の、自己の限界を超えるかの如く。
愛情、血の繋がり、仲間と駆け抜けた日々、冒険、新たなる世界の発見、そして少女の笑顔•••思い出が続々と甦るのは何故だろう•••。
しかし、たとえこの脚が折れようとも
、この肺が破れ心臓が壊れようとも、命を賭けて戦うのだ。
この最強の敵に打ち勝つ事ができるのならば、もう何も•••。
そして、彼は•••。
彼は夢を見ていた。
何色もの、色彩鮮やかな光のカーテンの中を彼は駆けていた。そして、翼を広げ蝶を追っていた。
〝あれは何なのだろうか〟
その蝶を追っていたその時、その夢の途中、彼は揺り起こされたのだった。奇跡の命が、遂に外の世界へと羽ばたく時間が訪れたのだ。
そして、彼は遂にこの世に生を受けたのだ。
彼が最初に見たものは笑顔であった。
たくさんの笑顔が、彼の生きる意味となった瞬間であった。
彼もまた、駆けた。
桜の花びら舞い散る中を、真っ白に彩られた白銀の世界を、仲間と共に。
そして遂に出会ったのだ。
彼は全てを理解したのだ。
〝この人だ!一緒に蝶を追う人だ!〟と。
いつか•••絶対に掴まえてみせる!
彼はそう誓い、駆け続けた。
暑い日差しの中を、激しく降りしきる雨の中を、坂を越え、国をも超えて、新たなる発見をした。
そして•••夢を掴まえたのだった。
今、隣を駆ける最強のライバル。
熱く、血が滾る。出し尽くす!全てを!
たくさんの人々の夢、希望、そして子供達の笑顔•••自身がこの世に生を受けた意義がこの場所にあるのだ。
彼もまた、すべての力を解放した。
空を翔け抜けるかのようなスピードを、大地を掘り返すかのような圧倒的なパワーを、肺を、心臓、四肢を。
〝駆け抜ける!天まで!〟
そして彼も•••。
「勝負の行方はどうなるのか⁉︎
ファイアスター並んだ!ファイアスター頭1つ出たか?ファイアスター突き離すか
!半馬身、いやサイレントマジョリティー差し返す!懸命に差し返す!並んだ!並んだ!何と言う力だ!驚異の精神力で差し返した!逆に頭1つ出た!いや、ファイアスターまたも差し返す!サイレントマジョリティー、サイレントマジョリティー、ファイアスター差し返す!ゴールはすぐそこだ!サイレントマジョリティー、ファイアスター並んだ!並んだ!そしてゴールを•••」
バシュロンは、愛馬の心の声を聞いていた。苦しみと、雄叫びと、そして喜びをも。
覚悟を決めた愛馬を、彼は渾身の力を込めて、あらん限りの力を込めて、懸命に押した。押しながら、彼は祈った。
〝どうか、力を•••〟と。
そのエールに呼応したサイレントマジョリティーは、最後の力を振り絞ってゴールを•••。
クラヴァシュドールが唸りを挙げる。
翔馬もまた愛馬の心の声を受け取った。
喜びと、苦しみとを。
最早肉体ではない、精神力が彼の走りを支えている。
〝大丈夫だ、ファイアスター、俺もいる!クラヴァシュドールは俺達の道標だ!飛べっ!〟
四肢に力を漲らせたファイアスターもまたゴールを•••。
「2頭並んで駆け抜けた〜〜〜2頭ほぼ同時にゴールを駆け抜けましたあ〜〜‼︎勝者は、勝者はまったく分かりませ〜〜ん‼︎
あ〜〜っと!なんという•••」
嘶きが絶叫の如く、ロンシャンの大空へと響き渡った。
PS•••いつもお目に留めて頂き、心より感謝申し上げます🥹🙏
次回配信は、10月19日土曜日正午🕛となります。
感涙必至の次回•••その結末とは⁉︎🥺
それではまたお会いしましょう🙏🙏
AKIRARIKA
先日、京都競馬場で開催された牝馬三冠最終レース、秋華賞🐴💨💨•••1番人気に支持されたチェルヴィニアが圧巻の勝利を飾り、二冠牝馬の称号を獲得しました👏👏
ここまで強いとは😅😅
今更ながら•••あの桜花賞の13着惨敗は一体何だったのだろうか?😅🤔🤔
木村師、厩舎スタッフ、そして鞍上ルメさん•••一致団結、チェルヴィニアの成長度合いに合わせての様々な調教、それに伴って彼女自身が成長し、見事に花開き👏👏👑🥇
次走はJCを視野に入れているとの事😳
秋華賞Vからのジャパンカップ制覇といえば、先輩三冠馬オルフェーヴルを直線弾き飛ばしたジェンティルドンナ、そしてあのアーモンドアイ!
古馬、牡馬をまとめて倒すのか⁉︎
秋、11月最終日曜日が楽しみですね😊🙏
名牝への道をひた走れ🐴💨🔥😤