翔べ君よ大空の彼方へ　　　　　4-㉑　英雄達

2024年2月24日 08:00

「さあ、先頭はロゼッタストーンだ！その差は3馬身！2番手に内からヴァイオレットエヴァーガーデン、ロザーリオンまだ持ったまま！直後にフェンシングボーイ、リオデラプラッタ、ハッピーモーニングが迫る！その後ろ、インからゲメインシャフト、間隙を突いて馬群をこじ開けた！ディヴァインリリー、バッケンレコード外に進路を取った！ガルデリネルジェス、更に大外を駆け上がる！残り300
、ロゼッタストーン、ラーヴルここでステッキを入れた！ヴァイオレットエヴァーガーデンが差を詰める！その差は2馬身！ゲメインシャフト来た！ゲメイン、内からヴァイオレットエヴァーガーデンに迫る！更に外から3頭、ディヴァインリリー、バッケンレコード、ガルデリネルジェス一気にやって来た！さあ、前はどうだ？ロゼッタストーン、エンジン点火だ！突き放すか！突き放すか！まだ差は詰まらない！2番手、ヴァイオレットエヴァーガーデン、ロザーリオン懸命の風車ムチだ！インからゲメインシャフト並んだ！並んだ！残り200、さあ、大激戦だ
！ヴァイオレットエヴァーガーデン、ゲメインシャフト、じわりと差を詰めてきた！1馬身半！大外から3頭がやって来る
！さあ、残りは6頭の争いだ！粘るか？抜け出すか？差し切るか？さあ、世紀の大決戦、いよいよ勝負の刻だ！」

「ジェス行け〜‼︎」
エリーはその激戦に両の拳を握り、モニターに向かって感情を爆発させた。
　白馬は、少女の大声にも我感せずと、
飼葉桶の横にセットされた台の上の、好物のリンゴや柿を咀嚼している。
　彼女の横にいた親友のジュリエットが
、その喧騒に呆れながら白馬のたてがみを撫でていた。

「ヴヴ〜•••」
右に座る父親に口を塞がれ、加奈は理性を取り戻し、画面を凝視した。
　両隣に座る両親も同様•••両拳に、全身に力を込め、無言でエールを送った。

「さあ残り100、正に大激戦！先頭並んだ！内ロゼッタストーン、外ヴァイオレットエヴァーガーデン！ゲメインシャフト首を差し込んだ！壁をこじ開けるか？ディヴァインリリーやや劣勢か？大外から2頭、バッケンレコード、ガルデリネルジェス、脚色はこの2頭だ！差は半馬身！ゲメインシャフト弾き飛ばした⁉︎先頭に立った！ゲメインシャフト先頭だ！しかし外からバッケンレコード来た！大〜外からガルデリネルジェス！届くか届くか！ゲメインシャフト先頭！3頭並んだ！首の上げ下げの応酬だ！ゲメインシャフト、バッケンレコード、ガルデリネルジェス並んでゴールイーン！どの馬が勝ったのかあ〜〜⁉︎」

　その瞬間、大観衆のどよめきがアスコット競馬場を包み込んだ。
　勝負は写真判定に委ねられた。

　僅かに及ばず、ラーヴルとロザーリオンは悔しげな表情を見せるも、ベストレースを称える為に、未だわからぬ勝者の権利を持つ3頭それぞれに愛馬を寄せ、健闘を称え合った。

　世界中、どれほどの人々がその瞬間を待ちわびているのだろう•••ここ地元英国のみならず、フランスの賑やかな牧場一家、日本は北の大地の牧場、中山競馬場近くの居酒屋、バレットとその恋人、馬の世界に夢を見つけた少年と、眠い目をこすりながら画面を凝視している親子、3度目の巡礼を始めた壮健な男性、競馬サークルのすべての関係者、そしてすべての競馬ファンが刮目している中、いよいよ決着のその時が訪れたのであった。

　涙を抑えているのか、空を見上げているジョッキー•••その肩に手を添えている天才騎手、そしてその横に泣き笑いの表情を見せている青い瞳のジョッキー•••それぞれがインタビューを受けていた。

「この歴史ある欧州最高峰のレースを、最強のメンバー相手に勝利する事ができたのは、本当に嬉しく、大変光栄であります。ただ•••」　

　勝利ジョッキーインタビューの最中、彼は突然言葉を詰まらせた。それでも気力を振り絞り、続けた。

「今回、この歴史ある舞台に参戦する為に、各国の精鋭馬とスタッフ、そして11人の英雄達が集結しました。ただ•••英雄が2人足りない。1人は、きっと天国でこのレースを見てくれたと思います。そして、もう1人の彼は今•••」

　超満員のスタンドは、より一層の静寂に包まれた。誰もが彼の次の言葉を待っていた。

　B.バシュロンは超満員のスタンドを見回し、自らを鼓舞するかのように、そして、世界へと届けとばかりに訴えた。

「いつかまた、彼と闘う日が来るでしょう！皆さん、その日を楽しみに待っていて下さい！」

　スタンドから地鳴りのような大歓声が沸き上がった。
　盛大なるスタンディングオベーションがアスコット競馬場を包み込んだ。その大波のようなオベーションに驚いたのであろうか、スタンドの一角を占拠していた平和の象徴である鳩の大群が、一斉に南の空へと飛び立っていった。

「いつかあいつと一緒にリベンジしようぜユウ！」
　悔しさを押し殺し、彼は頷いた。

〝この悔しさは忘れない！海外G1惜敗の借りは、海外G1制覇でしか返せない！〟

　ここにまた1人、リベンジを誓う新進気鋭のジョッキーが1人。

　　　　英国アスコット競馬場

　キングジョージ6世&クイーンエリザベスS