翔べ君よ大空の彼方へ 6-❾ 盟友
満開の桜が咲き誇る仁川のターフに精鋭が集結した。
ファンの視線の多くは、ここが引退戦となる2頭に注がれていた。
同期のライバル•••G1レース4勝、大阪杯連覇を目指すバッケンレコード、そして現役最多G1レース7勝を誇るゲメインシャフトである。
もう二度と見る事ができない最後の対決を見る為に、数え切れないほどのファンが阪神競馬場を訪れ、盛んに熱い声援を送っていた。
対抗馬は前年のダービー、ジャパンカップと、最優秀3歳牡馬のタイトルを受賞したダークブリザード、そしてすべて逃げ切りで、現在重賞3連勝中のトリプルミーニングであろうか。
レースは出脚が鈍ったものの、やはりトリプルミーニングが気合をつけられてスピードに乗り、大方の予想通り先手を奪い、緩みのないラップを刻み、13頭を引き連れて行く。
最初のコーナーを過ぎ、ゲメインシャフトは3馬身後方の単独2番手、バッケンレコード、ダークブリザード2騎は共に中段よりやや後ろ、先頭までは約8馬身、前方に壁を作り、しっかりと折り合いをつけピタリと並走していた。
前半1000メートル、58秒5のやや早いペースで逃げたトリプルミーニングの脚取りは軽快、残り800メートルの地点からもハロン(200メートル)11秒台のラップを連発し、持続力勝負を挑む様相となった。
第3コーナーを過ぎて馬群は凝縮、そして最後の直線残り200メートルでトリプルミーニングを捉えたゲメインシャフトが勇躍先頭に踊り出た。
前日の雨でやや荒れた馬場を気にしたか、翔馬は最内から1頭分外めのインコースを、愛馬を鼓舞し駆け上がる。
大外から豪快にダークブリザード、残り50、懸命にステッキを振るい、愛馬に花道!と、その檄に応えゲメインシャフトが並ばれながらも差し返し、態勢有利でゴールインするかと思われたその瞬間
、猛烈な旋風を巻き起こし、インを掬い駆け上がった人馬がいた。
鼻差で差し切った事を確信したか、河田ユウはステッキを持った左手を大きく掲げた。
翔馬は愛馬を導き、祝福の意を表した。
「先輩、すいません•••」
翔馬は彼の肩をポンと叩いて、笑顔を見せた。
ライトアップされたパドック•••ゆっくりと周回を重ねる2頭を注視する大勢の観客。
ゲメインシャフト•••この競走馬は翔馬に騎手としての心構えを、研鑽の大切さを教示してくれた名馬であった。
良い時も、悪い時も、全てを受け入れて、前へ進め!と鼓舞してくれた存在でもあった。
1頭の名馬との出会いは、確実に彼の人生を変えたのである。
競馬は、夢を見る事のできるブラッドスポーツ•••また数年後、彼らの血を引き継いだ子供達に出会えるであろう。
多くのファンの願いと同様、翔馬もまた笑顔で、ゲメインシャフトとバッケンレコードの次のステージへの旅立ちを見送ったのであった。
PS•••いつもお目に留めて頂き、心より感謝申し上げます🥹🙏
次回配信は、7月6日土曜日午前8時です🕗
遠く離れた異国にて、ホースマン達が戯れて🐴🥕💨🤣
それではまたお会いしましょう🙏
AKIRARIKA