翔べ君よ大空の彼方へ 7-❺ 英国ダービー
まもなく深夜0時•••日付が変わる。
どれ程の者達が今、テレビの画面に釘付けとなっているのであろうか?
鼓動の高鳴りを押さえ切れない少年少女、そしてたくさんの大人達•••日本中が
、いや、世界中がそれぞれの場所でその人馬の一挙一動に目を注いでいた。
スターターの合図を待ちわびる大勢の観客の姿が映し出され、スタート前の緊張がテレビの画面を通しても伝わってくる。
続々とゲートインする選ばれし精鋭達
。
堂々落ち着き払い、他馬の動向を見つめているファイアスター。
やがて、彼もまた導かれ、すんなりとゲートに収まった。
そして•••英国競馬の頂点を決める英ダービーのスタートが切られたのであった
。
「さあ、栄誉ある英ダービーのスタートが切られた!全馬ほぼ揃ったスタート!どの馬が行くのか?ファイアスター先手を主張するか?内枠からダークスター、ホットスパイクが押して押してハナを奪う勢いだ!ファイアスター抑えた!今回は行かないぞ!レインボーワールド、キングオブサイレンスが続いて、セブンオーシャンズ、ベルベットライリーも先団を伺う!前走逃げの手を打ったユニオンプライドは今回は中団からか?そして2番人気、4戦無敗のスペシャルローリングサンダーがここにいる!狙う背中はただ一頭
!そしてゾルゲ、アイスオンダンスが続く
!強烈な末脚を持つスターオブユニオン
、バルドゥーラ、クルードラゴンはこの位置だ!そして後方、マイレボリューション、ストリートファイター、最後方ポツンとレトロフューチャー、これで全馬17頭!
第一コーナーを回って、先頭はホットスパイクに入れ替わった!1馬身置いて単独2番手にダークマター、その直後内からレインボーワールド、キングオブサイレンスが並走する!1馬身置いてセブンオーシャンズ、ベルベットライリー、ユニオンプライドがいて、ここにいた!前走圧巻の勝利を飾ったファイアスター、二冠を目指し今日は堂々と中団からだ!前走2着に下したリアルエモーションは、先月の愛2000ギニーを圧勝したぞ!その能力は折り紙付きだ!その力強い足取りで今日もまた英国の頂点へと登りつめるのか?そしてその内に英国の期待を一心に背負うスペシャルローリングサンダー、デビュー以来すべて2000メートル以上を使われて、4戦全勝のそのポテンシャルをこの大舞台で発揮するか!鞍上ラーヴル
、あのロゼッタストーン以来のダービー制覇へと虎視眈々!直後にゾルゲ、アイスオンダンスが続いて、3馬身程置いてスターオブユニオン、この馬の末脚も侮れないぞ!差がなくバルドゥーラ、クルードラゴン揃って末脚勝負か?1馬身離れて後方 3頭、ストリートファイター、マイレボリューションがいて、最後方レトロフューチャー手綱をしごいている!全馬17頭、栄誉ある英ダービー馬の称号を目指して、威風堂々とエプソムダウンズ競馬場の急峻な坂道を駆け上がります!」
風を切り、坂を登る。
42メートルの高さを誇る急峻な坂も、彼は冒険に挑む子供のようにワクワクと、力強くピッチを刻む。
風に乗り、坂を下る。
30メートルもの落差がある下り坂を、雪原を滑りゆくスキーヤーのように、華麗なる大きなストライドで駆け抜けて行く
。
前走から1ヵ月の短期間で、彼は更なる成長を遂げていた。
馬体こそ435キロと相変わらず小柄な馬体ではあるものの、確実に芯が入り更なるパワーアップを、そして何よりも以前日本の某調教師が絶賛したその能力に磨きをかけていた。
軽快なスピード、圧倒的なスタミナとパワー、何者をも恐れない勇気、そして指示に即座に反応できる従順さとを。
この栄誉ある大舞台•••どれか1つでも欠いたとしたならば、頂点を掴み取る事はできないであろう。フィジカルもメンタルも桁外れの彼には、競走馬としての比類なき魅力が詰め込まれていた。
翔馬はまだあの夢を見ていなかった。
天国で駆けているであろう、見守ってくれているであろう親友が見たと言う夢を
。
まだ、追いついていないという事であろう•••伝説のホースマンとなった彼に。
それでも、翔馬の背中は光り輝いていた。見守ってくれる者達がいた。
まだ、その大きな翼を広げてはいないけれど、いつの日かきっとその透明な翼を大きく広げ、大空へと羽ばたく日が来るであろう。
下りのタッテナムコーナー、外を回してスムーズに下り、ベストポジションでレースを進める人馬はビクトリーロードをひた走る。
その時、突然目の前に•••光が疾った。閃光のような、目映いばかりの。
そして•••翔馬の視界に•••。
翔馬は前だけを見つめた。
左を並走するスペシャルローリングサンダーも、後方で静かに牙を剥くタイミングを待つスターオブユニオンも意識する事なく、ただ、煌めきを放つ、見える筈のない人馬だけを見つめていた。
まるで、翔馬とファイアスターに勝負を挑むかのように先を駆ける親友を。
〝勝負•••だな〟翔馬は笑みを浮かべた。
「行くか!ファイアスター!」
翔馬の心を即座に読み取ったファイアスターは、馬体をグンと沈め、まるで見えない敵を追いかけるかのように疾走を始めた。
力強く蹴り上げられた芝の塊が、宙へと舞い上がった。
PS•••いつもお目に留めて頂き、心より感謝申し上げます🥹🙏
次回配信は、8月31日正午🕛となります。
天国で眠るはずの親友が、人馬に挑みかかる⁉︎そして、その結末はいかに⁉︎
それではまたお会いしましょう🙏🙏
AKIRARIKA
AKIRARIKA