翔べ君よ大空の彼方へ　　　　　　　8-⑰ 親友の声

2024年11月23日 12:00

　第3コーナーに入り、ゴールデンパンサーの脚勢が一気に鈍った。

　ソングオブアース、ライトニングボルトが並んで押し出されるように先頭へと立つ。ファイアスターはソングオブアースの直後に付け、ポジションを上げたハットトリッカーが再びファイアスターの真右に馬体を並べた。

　馬群が一気に凝縮し始めた。
手応えを失ったレイヤードを交わし、河田鞍上のバーズオブコンドルがインから一気にポジションを上げ、ハットトリッカーの直後にポジションを取った。
　後方2騎、ラーヴル鞍上のスリリングショット、クラシック二冠のブラックブーメランが緩い下りで加速をし、馬群を縫うようにしてロングスパートを開始した。

　先頭から最後方まで7馬身圏内•••ほぼ一団の隊列が3コーナーと4コーナーの中間地点手前、ゴールまで残り700メートルに達したその時、彼等はその目に目映いばかりの輝きを放つ光を見たのだった
。

　それは正に閃光のような光であった。

　「動いた！ここで動いたファイアスター
！外からソングオブアースに馬体を寄せて、そして一気に交わした！
　いよいよ始まるぞ栄光への旅が！
そしてハットトリッカー、ソングオブアース、ライトニングボルトの隙間に馬体を差し込んだ！抜けた‼︎ハットトリッカーと鷹、ファイアスターを追う！内を掬ってバーズオブコンドル、最短距離でポジションを上げた！

　ファイアスター先頭！ファイアスター先頭に立った！ロングスパートでビクトリーロードをひた走る！これが最後の戦場だファイアスター！その戦場に火を付けたファイアスターが先頭だ！
　ハットトリッカー、バーズオブコンドル馬体を併せて差を詰める。
　おお〜〜‼︎外を回ってブラックブーメランも一気に来た！皐月賞、ダービーを制した脅威のロングスパートであっという間に姿を現した！その後ろからスリリングショットも上がってきたぞ！

　さあ、ファイアスター先頭で最終コーナーを回った！最後の直線だ！懸命にハットトリッカー、そしてバーズオブコンドル！外からブラックブーメラン！ファイアスターとの差は2馬身！さあファイアスター•••」

　先に動いたのは天馬であった。

　ライバルの機先を制するように、その雄大なストライドで先頭のソングオブアースをあっという間に交わし先頭に立ち
、進路を内に切り替えた。
　翔馬はワンテンポタイミングを置いてから愛馬に合図を送った。

　瞬時、手綱に伝わったその爆発的なパワー•••ファイアスターがガッチリとハミを取り、馬体を沈み込ませてそのジェットエンジンを点火させた。

　人馬は共に、黄金の光を放つその背を追った。

　
　「中山は直線を向いてから結構馬群がバラけるから、案外直線の内側は傷んでない事が多いよなあ•••。余程の状態じゃない限り、内を突くのが正解だろうなあ。
ほら、このレースも」
　「まあな。お前は中山得意だし、ロングスパートのタイミングと馬を最後まで持たせる技術は天下一品だもんな！」
　「お前だって東京得意じゃねえかよ！去年は東京だけで35勝もしたくせに！」

　二人は競馬学校の入学式で初めて対面をした。瞬時、互いに確信をした。

〝こいつは俺の永遠のライバルになる！
〟と。
　一流騎手の子息と、乗馬経験を重ね入学した少年。互いの直感に間違いはなかった。

　スタート、レースでの位置取り、追い出すタイミング•••。学び、鍛錬し、互いに切磋琢磨した。同部屋で生活し、互いの全てを曝け出した。
　血統、レース展開、騎手の手綱捌き、フォーム、講義、トレーニング方法、そして人馬一体の夢•••。

　寝るのを惜しんで毎晩語り合った。

　親友であり、好敵手であった。
引き分けから始まった二人の騎手人生。

　騎手として様々な場所を訪れ、世界の広さを知った。
　沢山の人々と出会い、囲まれ、縁を紡いだ。

　二人は共に戦った。
　お互いの夢へと向かって。

　好敵手ではあるけれど、それ以上に、馬を愛する同志なのだから。

　翔馬は追い掛け続けた。
　天国で駆けている未来の背中を。
　永遠の好敵手を。

　今、その好敵手が隣を走っている。

　　　　　〝負けない！〟

　翔馬は、黄金色に輝くクラヴァシュドールを高々と天に掲げた。

　その背に輝く勝利の羽根が、今、大きく、大きく翼を広げた。