翔べ君よ大空の彼方へ 7-⑫ エッフェル塔よ待っていろ!
立錐の余地もない程の観客の熱気で溢れ返ったスタンドから、波紋のようにどよめきが広がってゆく。
快晴に恵まれた英国ドンカスター競馬場で行われているこのレースの結末を、世界中の競馬ファンが固唾を飲んで見守っていた。
「ファイアスター、三冠成るか⁉︎」
単勝支持率1.0倍の不動の支持を背負い
、今、彼は後続16騎を引き連れてレースを進めていた。
ただし••• 2番手以下を遥か彼方へと引き離していたが。
果たして彼は今、何を見つめて、そして何を思って駆けているのであろうか?
天馬を追い駆けているとは思えない。
翔馬にその気配は感知できなかったから
。
レースは既に折り返し地点を過ぎている。翔馬は後ろを振り向いた。
遥か彼方後方に点の如く蠢く後続馬。
然れど彼は、ファイアスターは息の乱れ一つも見せず、宙を飛ぶかのように益々ピッチを上げ後続を引き離していくのだ
。
まるで、翔馬を別次元へと引き込むかのような勢いで。
2ヶ月振りの再会•••ファイアスターは翔馬が近付いて来る足音を聞くなり、昼寝もそこそこに馬房から顔を出し、喜びを表した。顔をすり寄せ、何かを伝えたいかのように甘えていた。
そして、
〝また一緒に戦えるんだな!早く外に出せ!〟と、翡翠色の瞳を輝かせ、その力強く美しい四肢を大地に打ち付けていた
。
〝これが完成形か•••〟
翔馬は目を瞠った。
スラリと長い四肢、伸びやかな胴、麒麟のように長い首、柔軟な筋肉を包み込む薄い皮膚は相変わらず煌めきを放っている。
馬体重は440キロと、少々大きくなった程度ではあるけれど、体高が伸び馬体全体のバランスとしては完璧であった。
何よりも、跨った瞬間の衝撃。
異質とも思える手先の軽さ、相変わらずの背中の柔らかさと尋常成らざる体幹の強さ、彼を支えるその心臓の強さ。
心拍数毎分22回。
一般的な競走馬の数値が36回と言うから
、その凄さは際立っていた。
天性の能力にまた一段と磨きをかけ、3歳秋を目前にメンタルとフィジカルがリンクし、遂に完成したのだ。
翼が満面の笑みを浮かべ言った。
「これが本当のファイアスターだな!」
翔馬はファイアスターを完全に手の内に入れていた。
息を合わせて人馬は前へと進む。
お互いの、その黄金の翼を広げて。
彼となら、どんな競馬も可能なのだ。
彼と一歩を進める度に、新しい景色を、新しい世界を知る事ができるのだ。
翔馬は知らないであろう。
ファイアスターもまた、あの不思議な夢を見た事を。
翔馬は知らないであろう。
自らが切望していた能力を、遂に手に入れた事を。
今や人馬は完全に一体となっていた。
その姿は、美しくもあり、力強くもあり
、凛々しくもあった。
すべての者の視線が、彼等だけに注がれていた。実況アナウンサーは絶叫した。
「ファイアスター!君は何という馬だ!
後ろは、後ろはどこにいるのか?
行け!夢の世界へ!行け!未知の世界へ!ファイアスターが宙を翔ける!ファイアスターが天を翔ける!ファイアスター、どこまでも駆けてゆけ!
FIRESTAR FIRST‼︎
the rest nowwhere〜〜‼︎(ファイアスターが1着!残りの者達はどこにもいない!)
FIRESTAR is truly a World treasure〜〜‼︎(ファイアスターは正に世界の宝だあ〜〜)
今、世界の競馬史に新たなる伝説を創り上げました!ファイアスターが英三冠制覇を成し遂げました〜〜‼︎」
観衆の大興奮の中心には、やはりこの人馬の姿が似合う。
「彼は、本当に凄い馬です。また一緒に
、この先の世界を見てみたい!この海の向こうにいる彼等と戦いたい!ファイアスター、一緒に行こう!」
美しい青毛の馬体を、白銀のたてがみと尾を震わせて、ファイアスターが力強く嘶いた。
大地が鳴動し、地鳴りのようなコールとエールが大空へと翔けてゆく。
欧州の高き頂きを4つ制覇した英三冠馬
ファイアスターと、人馬一体の夢を遂に手に入れた大空翔馬。
今堂々王者として、重い歴史の扉をこじ開けに行く!
〝エッフェル塔よ、待っていろ!〟
翔馬は大空を見上げた。一筋の飛行機雲が東の空へと流れていった。
PS•••いつもお目に留めて頂き、心より感謝申し上げます🥹🙏
次回配信は9月25日水曜日正午🕛となります🐴💨大空翔馬のファンNo. 1を公言するフランス🇫🇷の大物馬主が翔馬と?
今日の味方は明日の敵とはなれど•••。
それではまたお会いしましょう🙏🙏
AKIRARIKA
成田国際空港から✈️に乗って
北海道へ馬旅に行きました🐴🪦😢
🌼🌺💐🙏