翔べ君よ大空の彼方へ 5-㉓ 覚悟
彼の空白の期間を埋めるかの如く、皆が翔馬の周りに集まり、思い思いにそれぞれの話題を振りまいていた。
中山競馬場の近くに引っ越しをし、週に3度のアルバイトで食べ放題の恩恵を受けている男性とその雇い主。
誰に抱かれても泣く事なく、いつもニコニコ笑っている、生後7ヶ月の女の子のそのふわふわした感触にドギマギしている翔馬を優しく見つめている両親。
毎週土日に乗馬スクールに通っている少年が、最近落馬の夢ばかり見て困っていると彼を笑わせ、四葉のクローバーを収集しまくっている女の子がメモ帳を広げて、満面の笑みを浮かべていた。
繋靭帯炎を克服し、昨日前年の菊花賞馬アモルファスとの壮絶な叩き合いを制し、見事天皇賞春制覇を成し遂げた馬主が、後日開催する祝勝パーティーでの参加者へのプレゼントを彼に相談、〝勝ちタイムの砂量を入れた砂時計〟と提案し、万来の拍手が湧き上がった。
阪神大賞典圧勝をステップに、来月海外遠征を決行、昨年2着の雪辱を期す馬主と調教師、そして彼の留守を預かった天才騎手が、
「来月英国遠征だけど、お前が乗れよ!」と無茶振りをし、彼を困らせていた。
治療休養中のG1レース6勝馬。
息子のようにその愛馬を溺愛する馬主から近況報告を受け、彼は胸を撫で下ろしていた。
子供達はなかなかに本格的な木馬を引っ張りだし、次から次へと騎手になりきっている。
未来の競馬騎手候補生誕生か⁉︎と、皆暖かい視線を注いでいた。
愛馬と共に障害馬術フランス選手権を制し、3ヶ月後のワールドカップに出場、そして2年後のロス五輪をも視野に入れている、少女のキラキラと輝いている青い瞳。少女はこの素晴らしいパーティーを
、母国にライブ配信していた。
実家の牧場からは、母親のレザンドリーと、先月生まれたばかりの牝馬を囲んで、一家総出で翔馬に手を振っていた。
「乗って欲しい馬がいるんだ!けれど•••あの馬、凄いなあ!強敵登場だよ!困ったなあ〜」
何やら思案げな様子を見せるのは、白い髭がトレードマークの大物馬主。
それでも、世界一の翔馬の理解者と自認している彼は満面の笑顔を見せ、彼の帰還を心から喜んでいる様子であった。
スタリオン代表と夫人、スタッフも入れ替わり立ち替わり集合し、これから復活を遂げるであろう、彼らにとっての英雄の、その笑顔を肴に、豪勢な料理に舌鼓を打っていた。
この場にいる全員が、円の中の縦横の糸の交わりであった。仲間であった。
その中でも、一際長く太い糸であろう彼が親友を掴まえて、大広間の隅で何やら密談中の様子であった。
「まだ誰にも言ってないんだ。代表と俺しか知らん。お前も分かっていると思うが、ファイアスターは規格外の馬だ!一体どこまで成長するのか、全く想像もできん。来年、朝日厩舎に入厩させようと思う。そして、天国の未来にも夢を見させてやってくれ!
俺らも全力を尽くすから、頼んだぞ翔馬!」
翔馬は師の言葉を思い返していた。
「翔馬、若い時はとにかく汗を流せ!
調教でもレースでも、トレーニングでも常に全力だ。若い時に流さなかった汗は
、歳を取ってからの涙に変わってしまうぞ!後悔の涙にな。
支えてくれる人達への感謝を忘れず、常に汗にまみれろ!」
まだ、先程の衝撃の感触が、両の手に
、その全身に残されていた。
彼に乗る資格を取り戻す為に、明日から、いや、今日この時から自らの道へと戻らねばならぬ。
翔馬は翼と相対し、正面から視線を交わした。
親友の真摯な眼差しに対し、覚悟の返答をする為に。
人生は、本当に面白い。
たとえ、何かを失ったとしても、必ず別の何かが用意されているのだから。
大空翔馬とファイアスター•••これからこの人馬はどのようなドラマを見せてくれるのだろうか。
翔馬は力強く頷く。
翼が満面の笑みを浮かべた。
いよいよその時がやってきた。
心の修行を終え和解を成し、自らを解放すると共に、ジグソーパズルの欠けていたピースを全て埋め入れ、今未来へと歩き出す。
皆の熱い視線が、翔馬に注がれていた
。
「皆さん、本当にありがとうございました。明日から、いや、今日この時から、僕は騎手へと戻ります!」
大空翔馬の新たなる物語の始まりであった。
PS•••いつもお目に留めていただき、心より感謝申し上げます🥹🙏
昨年12月13日、彼女を失った翔馬が姿を消しました。あれから5ヶ月強•••心の修行を終え、和解を成し、翔馬は未来への道を歩み出します。
希望に起き、努力に生き、感謝に眠る
大空翔馬の新たなストーリーがこれから始まります。
拙作ではありますが、どうかお目に留めていただければ幸いです。よろしくお願い致します🥺🙇♀️
次回の配信は6月1日午前8時です🕗
新章配信の前に、ちょっと寄り道を🤭🤣
先日、北海道へ馬旅に行って来ました。その様子を掲載させていただきます
🙏🙇♀️久しぶりのお馬さんの背中•••やっぱり素敵でした👍✨🐴👍
ではまたお会いしましょう!
AKIRARIKA
ダービー回顧
しかし、名手の手綱捌き炸裂のダービー🇯🇵🐴でした。スローの展開を見越しての先行策。そして最後の直線•••最内のグリーンベルトをスルスルと🐴💨🔥
思えば皐月賞の出走直前に、歩様の違和感を鞍上が察知し、出走回避。
無念。しかし•••厩舎一丸となり、一旦リセット。大舞台を目指して再び歩む日々。
〝馬は人の愛情に応えてくれる〟
横山典弘の名言👍👍👍心に響きます🥹
また新たなヒーローが現れました。
だから競馬はやめられないのです🤭🤣