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翔べ君よ大空の彼方へ 5-⑭ 覚悟
陽光降り注ぎ、春風薫る3月下旬、昼食を終え本堂で座禅をしていた彼の前に、1人の恰幅の良い住職が姿を現した。彼のよく知る住職であった。
「いやあ、お久しぶりですね。お元気そうで何よりです」
彼は驚きを禁じ得なかった。大僧正から発せられた一言に。
「まさか•••ここまで本当に歩いて来られるとは•••」彼は言葉を失い、黒光りするその床にただ額ずく事しかできなかった。
足摺岬から、この高野山までの旅を支えた金剛杖の先端には、その証がしっかりと刻み込まれていた。
「悲しみを背負い、自らとの和解と解放を目指す旅と、目的地が決まっている旅とでは、意味合いも、その困難さも比較にはならないですよ。君に比べれば、私の旅など大した事ではない」
2人は、大僧正が用意した広々とした和室で対面をしていた。
新しい畳と部屋の中央に備えられた囲炉裏、窓の外には咲き始めたばかりの桜の花が涼しげな風に揺られていた。
「けれど、さすがにお腹は空いたね」
住職はニヤリと笑い、テーブルの上に置かれた数々の和菓子の中からきんつばを手にした。彼も笑みを浮かべて、目の前の栗羊羹に切り目を入れて口に含んだ。疲れた体にはやはり甘いものであろうか
、いや住職が甘いものに目がない事を知った上でのお接待なのだろう。
住職は手を止めずに、次から次へ和菓子へ手を伸ばす。
「若者は、遠慮しちゃいかんよ!」と、言いながら。
彼は頷いて、大好物の豆大福に手を伸ばす。豆のゴツゴツ感とキック力の強い甘さのあんこ、そして餅の柔らかさ••• 3つのハーモニーがたまらない。
粉まみれになりながら、満足の様子で食べている彼に触発され、住職も手を伸ばす。
「おお•••これは!旅をした甲斐があったかな?」
そのふくよかな笑いに、彼もつられて笑い出す。
心の底からの温かい笑い声に驚いたのか、窓際で唄を奏でていた二羽の小鳥が
、勢い良く飛び立っていった。
身を、心を清めた2人は、改めて和室にて向かい合っていた。
「旅は無事に終わりましたか?」
「はい、おかげさまで。たくさんの方々に助けられて円を、いえ、円の中にもたくさんの糸を紡ぐ事ができました」
彼はきっぱりと言い切った。
その真摯な眼差しには、何の迷いも見られなかった。
住職は頷き、お茶を一口啜り言葉を続ける。
「この世は、無限の連なりの中に一定の期間だけ滞在を許された場所なのだね。人は全て、この世に滞在を許された客であり、その期限が人によって長いか短いかの差に過ぎないのだろう。
ちょっと難しい話になるけれど、
〝生死事大 無常迅速〟という言葉がある。
一人の人間の次元においては、生死はとても重大な事であろう。しかし、それよりも高次の〝無常〟というものが、必ずや背後に存在している。そして、それは迅速に訪れるものなのだね。
1日を終えて目を瞑り、また必ず明日がやってくるとは限らない。
だから、人は今日1日を、今この時を精一杯生きねばならないのだよ」
彼は正座の姿勢を崩さず、ひたと住職を見つめている。
「思い通りにならない事はこの世の常である。どんなに最善を尽くしても、散々な結果を招く事もあるだろう。
けれど、最善を尽くす事とその結果とは、また別の次元の話なのだよ。
それでも、素晴らしい1日をもたらす為には、やはり最善を尽くさねばならない
。その積み重ねこそが人生だと私は思う
。最善を尽くしたと言う充実感こそが、人生において必要なのではないだろうか
?」
「はい」
彼は、この説法は自身の人生の転換点となるであろう、大切な時間であると感じ取っていた。
決して聞き逃す事のないように、すべての感覚を鋭敏に働かせるのだ。
「今、この瞬間に思いを留め、自分のできる事だけに没頭する。それをできたのがね、君なんだよ」
「僕•••ですか?」
「そう。心に想う人の為に、1400キロを歩く事は容易ではない。短期間で、それも通しで4回とは•••。それが、今自分にできる事だと信じて、強い意思を持ち続けて見事に大いなる円を結んだ。
君は確かに最善を尽くしたのだ」
住職の包み込むような温かい眼差しが、彼を見つめている。
「暑い太陽の下、激しい雨の中、厳しい山越え•••天候と体調と戦い、1歩ずつ前へと進んだ。歩けば歩くほど、道は現れただろう。その道は、先人達が築いた道なのだよ。これから先、この道を歩くであろう私達の為に築いてくださった道。
そして君もまた、その道を築いたのだよ。
道とはね、人との縁という意味でもある。たとえほんの一瞬の出会いでも、どこかで繋がってゆく。そして、出会った人達の道にもなってゆく。
アカシックレコードという言葉があってね、この宇宙のあらゆる記憶、事象、概念が永久的に刻まれている記憶媒体という意味だそうだ。
人はね、一度出会ってしまった人とはね、もう別れる事はできないのだよ。
笑顔、涙、言葉、匂い、そして時間•••たとえ、それが過去になったとしても、全てが記憶に、いや、世界に刻み込まれているのだから。
さて•••君は一体どれだけの人達に守られ、愛されているのだろうか•••」
住職が、ここで一旦言葉を区切り、退出をした。
春の夕暮れ時の柔らかな風が、彼の頬を撫でるかのように通り過ぎてゆく。
彼の視線が、囲炉裏の後ろに掛けられた1枚の掛け軸に向けられた。
人をまつ身はつらいもの
またれてあるは なほつらし
されど またれもまちもせず
ひとりある身は なんとせう
夢二
彼は、その文字を、じっと噛み締めるかのように呟いた。
やがて、住職と彼もよく知る僧侶が姿を現した。
僧侶がテーブルの上に風呂敷包と抹茶入りの鉄器をセットし、彼の前に1箱の段ボール箱を置いて退室した。
彼は住職を見上げた。
「最善を尽くした君へのプレゼントだろう。ただ、君の道はまだ完成してはいない。大空翔馬の第二章はこれから始まるのだから」
そう言って、住職は両手を合わせ、一礼をして退出した。
静寂の中に、鉄器からの芳香高い抹茶の香りが漂っていた。
彼は鉄器から急須に抹茶を移し、茶碗に注いで、ゆっくりと口に含んだ。
鼻から口に抜けるその芳香•••まるで全身の細胞が目覚めるかのような感覚に包まれた。
そして、改めて口に含み目を閉じる。
ゆっくりと呼吸を繰り返す。
静寂の中、自らを整えるかのように、ゆっくりと呼吸を繰り返す。
どれほどの時間が経過したであろう•••彼は瞑目を解いた。
覚悟を決めたのであろうか、彼はその箱をじっと見つめ、手を添えて、そして•••。
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PS•••いつもお目に留めて頂き、心より感謝申し上げます🥹🙏次回配信は5月1日午前8時です🕗少年少女、そして大人達、あの名馬もまた翔馬の無事を、復帰を待っています!さあ、翔馬!早く!
それではまたお会いしましょう🙏🙏
AKIRARIKA
🐴おまけ🐴
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有力どころにぶつけます😊😊
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