翔べ君よ大空の彼方へ 5-⑩ 静寂の夜❶
「寒くない?」「うん、大丈夫!」
両親の心配をよそに、少年は力強く頷いた。
自宅から徒歩10分の場所にあるお寺への参拝•••大晦日だけにかなりの参拝客が予想される。
今年1年•••駆け抜けた彼へのプレゼントであるかのように、キラキラと星が瞬いていた。
少年には、3つの願い事があった。
けれど、願い事は1つにしなければならない。二兎追う者は一兎も得ず•••と、学校で習ったのだ。故に、彼は閃いた。2つのお願いを両親に頼めばいいのだ!と。
少年は、ニンマリと笑った。
やはり、境内は参拝客で溢れていた。
手水場で手と口を清め、3人は参拝客の列に並ぶ。さて、いざ実行の時である。
「お母さんは、僕の体がもっと強くなりますようにって願ってね」母親は目を丸くして呆れていた。
「それって、願い事の強制みたいじゃない?」少年はニヤリと笑う。
「お父さんは、僕が月に何回か乗馬スクールに通うことができますようにってお願いしてね!」
2人はお手上げの様子で少年の頭を撫でている。
〝よし!これで大丈夫!〟
果たして、少年は何を願うのだろうか•••列は1歩ずつ、確実に前へと進んでいる。
少女の部屋からは、遍路旅の終着寺である大窪寺を望む事ができる。
明日は、7時に起きて身だしなみを整え初詣•••徒歩5分は破格の立地である。
今日は朝から大掃除でてんてこまい•••身体はくたびれているものの、まだ眠るわけにはいかない。大晦日の、除夜の鐘に願いを込めるのだから。
〝4回目の旅は無事に終わったのかな?風邪引いてないかな?ちゃんと食べてるのかな•••〟少女の悩みは尽きない。
けれど、大丈夫!翔馬は強いから。
翔馬が復活する時には競馬場に行くのだ
。たとえ1人でも、どの競馬場であろうとも。
壁時計が午後11時半を示していた。
少女は部屋の電気を消し、暗闇に浮かぶ
明かりに照らされた境内を見つめながら
、耳を澄ましていた。
時折、馬の嘶きが聞こえる。
「あれはウチの馬やね」一人の若手調教師が苦笑いをした。
「まあ、いつもの事やわ!」と、付け加え、テーブルの上に置かれた皿に手を伸ばす。他の2人もまた負けじとその高級寿司に手を伸ばす。
あっという間にサーモンだけが姿を消してしまった。
目を見合わせて笑い合う3人の調教師のお疲れ様会•••朝日師、冨士原師、そして八木師、特に親交の深い調教師が冨士原師の自宅リビングに集まっていた。
テーブルの上には、フォトフレームが置かれており、その前には並々と注がれたワイングラスとチョコがセットされていた。
写真の中の彼は、1頭の馬に寄り添い、満面の笑みを見せていた。
「この一年、良い事も悪い事もあったけれど、来年もまた馬優先主義でお互いに切磋琢磨しましょう!」最年長である冨士原師の言葉に2人は頷く。
言葉にはしない思いがそれぞれにある
。胸に秘めるその思いを、やがて聞こえてくるであろう除夜の鐘に託すかのように、それぞれが静かにその時を待つ。
静寂の夜がゆっくりと過ぎてゆく。
🐴🍀皆様へのご報告🐴🍀
PS•••いつもお目に留めて頂き、心より感謝申し上げます。
まずはご報告🐴🍀🐴🍀
有料購読をしていただいた皆様のお気持ちを、引退馬支援の一環として、生牧草に代えさせて頂きました🥹🥹🙏☺️
ありがとうございます😭
今回は、北海道沙流郡日高町にある乗馬施設、北のうまやさんで頑張っている、サンライズデヴォン号に生牧草を送らせて頂きました🍀🐴🍀
このお馬さんについてですが、現役生活を終えた後も紆余曲折あり、幸運にも北のうまやさんにて、幸せな第二の馬生を送っております😊🥹
有料配信の購読料はすべて引退馬支援に使わせて頂きますので、今後ともどうぞ宜しくお願い致します🙇♀️🥺🙏
さて、今週日曜日の皐月賞🐴👑🐴👑
皆さんもご存知だとは思いますが、先日悲しい事がありました。
改めて、ジョッキーとは命を賭けている、生と死が表裏一体である過酷な職業だと•••🥹😢😭
一ファンである私には何もできないけれど、忘れない事が最大の供養になるのかな•••と🥺🙏
どうか天国から全てのサラブレッド達、ジョッキー仲間を見守ってください🥺🙏
彼のご冥福を祈ると共に、残された皆様の心痛が、少しでも和らぐ日々が一日でも早く訪れますように😢🙏
AKIRARIKA