翔べ君よ大空の彼方へ　　　　　終章❶ ２つの門

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2025年3月1日 12:00

　「さあ、今日はどのルートを回ろうか
？」

　「よし！今日はこのコースで！」

　「乗馬は13時からだから、午前中かなり回れるね！」

　親子連れのグループが多数、若いカップルもかなりの数•••たくさんの花束を手に
、どうやら行き先を検討している様子である。

　夏休み真っ盛り•••この場所を訪れている老若男女、年齢性別国籍多々様々であるが、その中でも1つだけ共通項がある。

　それは、すべての者が競馬を、サラブレッドを愛しているという事である。

　「ゲメインシャフト、ストロングクーガー、ブレストファイヤー、トリコロールスターと回るから•••Ａの4だよ！」

　「バッケンレコード、コルトガヴァメント、スターダイナマイト、ブラックブーメラン、ん〜•••Cの3から、Bの1だね！」

　「今日も混むかなあ？でも、今日で休みは最後だから、頑張って並んで会いに行こうね！」

　午前9時•••暑い日差しが照りつける中を、人々は一斉に駆け出していく。

　彼等、彼女等の魂が眠る、その区画を目指して。

　ここ、福島県にある天翔ホースパークは、今やサラブレッドを応援する者達の一大拠点となっていた。
　地の果てまで続くと思われるその広大な土地は、いくつかのエリアに分かれていた。

　THE LAND OF THE FREE（自由の地）
というエリアは、広大な牧草地であり、思う存分乗馬を楽しむ事ができる。
　森があり、丘陵があり、湖があり、色とりどりの花が咲き誇り、四季折々に様々な情景を感じ取る事ができる。

　逍遥馬道を5キロ進めば、そこには雄大な太平洋が広がっている。

　もう一つの、
GATE OF HEAVEN（天国の門）は、延々と連なるサラブレッド達の墓碑•••天国へ旅立ったサラブレッド達の魂が眠る場所であった。

　その墓碑の一つ一つにレリーフと、その生涯なる証が刻まれ、飾られたたくさんの花々が、その魂の平安を祈っているのである。

　一体どこまで広がっているのだろう•••
何千頭もの魂が、この場所で安らかに眠っている。
　人々は、それぞれの場所へ向かい、供花を捧げ安寧を祈るのだ。

　3階建て、ログハウス調の巨大な宿泊施設が何棟も敷地に広がり、春から秋にかけてはテントを張り、夜を明かす事が出来るよう、様々な設備を整えている広大なキャンプ場も人気を博している。

　この世界に生を受け、命賭けでターフを駆け抜け、天へと旅立ったサラブレッドが安らかに眠れる場所を、サラブレッドを愛する者達がその魂の平安を願う場所を、そして何よりもサラブレッドがこの世界で生きた証を、大地を駆け抜けたその姿を記憶に留めて欲しい、忘れないで欲しい•••自身の理念を実現する為に、フランス人のジュスティーヌ•ロッシ氏が設立したホースパークであった。

　「あ！玲奈さんおはようございます！」
　「おはようございま〜す！」

　「とんぼさん、うさぎさん、おはようございます！今日も良い天気で商売繁盛！お客様がたくさん！頑張ってくださいね！」
　フロント係の玲奈がとびきりの笑顔を見せ、いそいそと駆け抜けて行く姉妹を見送った。

　姉妹は、宿泊施設に隣接するホースパークの乗馬インストラクターである。
　共に世界を股にかけ、大きな国際大会でメダルを獲得したその実力を如何なく発揮し、ホースパークの繁盛振りに一役も二役も買っているのである。

　今日もまた、サラブレッドを愛する者達の、それぞれの1日が始まってゆく。