翔べ君よ大空の彼方へ 3-❷ 上陸
5年ぶりに上陸したパリは熱気に溢れていた。いや、正確に言うならばまだ空港内・・・上陸を果たしたわけではない。
先週閉幕したパリ五輪の余韻が、そこかしこに感じられる。
五輪マスコットが〝ようこそショーマ!〟と、プラカードを持って笑っている。
「?」
オリンピックは終わったはずだ。なぜ笑っている⁉︎
そういえば・・・前回は紳士2人と女性秘書がプラカードを持って手を振っていたのだが、今日は何故に空港職員と警備員に囲まれて歩いているのだろう・・・その答えが30秒後に明らかとなった。
出口に出た瞬間の、割れるような大歓声とフラッシュの嵐・嵐・嵐。
誰が来ているのだろう・・・後ろを振り向いたが警備員に囲まれて、何も見えやしない。
「ショーマ、ショーマ、ショーマ🩷、カケル〜‼︎」
エールの合唱が耳に届き、彼はようやく騒ぎを起こしている張本人が自身である事に気付いたのだ。
翔馬は大勢の応援団に一礼をし、用意された車に乗り込んだ。大勢の応援団を制止しきれない警備員に、〝すいません〟と、両手を合わせ、翔馬はようやく、パリへの上陸に成功したのである。
車の中には、映画女優と見紛うほどの美人女性が助手席に座っていた。
「ショーマ、お久しぶりです」
この人は本当に秘書なのか?そのあまりの美しさに、ドギマギしながら翔馬は右手を差し出した。
空港から10分強で目的地のホテルに到着した。
目の前に広がるのは、有名なモンマルトルの丘。公園や庭園が広がり、荘厳なる寺院や教会、クラシカルな美術館や博物館がパリの街に彩りを添え、たくさんの人々が憩いのひとときを過ごす場所である。
翔馬は秘書の案内で最上階の部屋へと案内された。
秘書がベルを鳴らすと、中から満面の笑みを浮かべた白髪の紳士が現れ、翔馬を抱きしめた。
「ようこそフランスへ!楽しみにしていたよ!」
翔馬はフレンチ・キスの嵐を浴びた。
フランス人は感情表現豊かである。この人は特に。
「疲れただろう。まずはランチにしよう
!カケルの大好物ばかり用意してあるんだ!」
目の前には翔馬の大好物のガレットやポワレ、フリカッセが並び、間違いなく最高級なのだろう、シャンパーニュが2本セットされていた。
秘書曰く、このホテルは昨年春にロッシ氏が買収したホテルで、フランスの一流デザイナーによって、パリの街並みにしっくりと溶け込むデザイナーズホテルに改修され、ロッシ氏の話題性もあり人気沸騰、3年先まで予約が埋まっているとの事だった。
「カケルの活躍に乾杯!」
「フランスダービー制覇、おめでとうございます!」
2人は笑みを浮かべ、シャンパングラスを合わせた。
ロッシ氏のカーネルおじさん化はますます本物へと、いや本物さえも凌駕しているのではないか・・・フランスの競馬ファンの間では、名物馬主としてよく知られ、街を歩けばラッキーアイテムの如く
、必ずと言っていいほど写真撮影を求められるそうだ。慈善事業団体も運営しており、その長年の功績から先月、フランス政府から何やらの勲章をいただいたらしい・・・なんだか凄い人と食事をしている気がする翔馬であるが、居住まいを正し
、改めて感謝の意を伝えた。
「この前は本当にありがとうございました。師も天国で喜んでいると思います」
ロッシはグラスを置いて、翔馬をひたと見つめた。
「いや・・・ただただ本当に悲しくてね。
カケルの師匠には、もっともっと長生きしてもらって、カケルの活躍を見続けて欲しかった・・・」
フランスダービーを制覇し、口取り式、式典を終えた後、彼はすぐに森永師と共に日本へと旅立ったのだ。
2人の姿を会場で見つけた時、翔馬は
〝まさか!〟と、目を疑った。
翔馬は喪主との約束を破り、トイレでこっそりと泣いたのだ。
国は離れていても、同じホースマンとして、その優しさに触れ、涙を抑える事ができなかった。
「はい・・・。でも僕の、みんなの心の中に生きていますから」
背中に黄金の翼と、クラヴァシュドールを備えている男。
困難さえも力に変えてしまう勇士。
ロッシはグラスを掲げる。
「ワシはいつまでもカケルの味方だ!あ、英国では敵になってしまうんだった!」
2人は大笑いをして、再び、シャンパングラスを重ね合わせた。
PS・・・いつもお目に留めて頂き、心より感謝申し上げます😢次回配信は、10月14日午前8時です🕰️不死鳥復活🔥🔥生死を彷徨ったあの名馬が宙を舞います🐴🐴そして、一家大集合🍚🍷🤭
それではまたお会いしましょう🙇
AKIRARIKA
ここから先は
¥ 100
この作品を通して、養老牧場への牧草寄付等の引退馬支援を行います。その為のサポートをしていただければ幸いです。この世界に生まれたる、すべてのサラブレッドの命を愛する皆様のサポートをお待ちしております🥹🙇