翔べ君よ大空の彼方へ 6-⑩ 異国にて
昨日、遠く離れた異国にて激しい叩き合いを演じた2人と付き添いの1人が見つめているのは、どこまでも広がる広大な海であった。
2人の騎手はこの牧場を訪問した事があるのだが、今、放牧中の競走馬に囲まれ身動きの取れない彼にとっては初訪問であり、あまりのスケールの大きさに戸惑いを隠せない様子である。
「おおー〜〜い、翔馬助けてくれ〜!」
100メートルは離れているだろうか、親友の叫び声が聞こえ、2人は顔を見合わせて笑った。
〝だから離れるなって言ったろうが!〟
異国の名門牧場の全てを記憶に刻み込むかのように、1人果てしなく広がる広大な牧草地を歩きまわっていた翼に殺到したのは、10数頭の競走馬•••彼らは食物を背負う青年が発する美味しそうな匂いを嗅ぎつけたのだろう。
翼は牧場代表の夫人から手渡された特製の人参を配るのにてんてこまいの様子
•••手がいくつあっても足りないと観念した彼は、リュックに入っていた人参を全て牧草地にばらまいて、脱兎の如く逃げ出した。
高らかな笑い声が、広大な牧場に響き渡った。
馬は、基本臆病で寂しがり屋なのであろう。日本馬が海外遠征を決行する場合
、帯同馬の存在は不可欠である。
お互いの、その存在が安心感を生むのだ。しかし、この2頭はお互いにとってのただの帯同馬では無い。
どちらも日本のチャンピオンホースであるのだから。
前走、天皇賞春は圧巻であった。
1番人気を背負うストロングクーガー、そして2番人気のアモルファスが単勝1桁台の圧倒的な支持を受け、レースもやはり他馬の追随を許さないマッチレースを演じた。
圧倒的なスタミナを武器に、2番手に付けたアモルファスが第3コーナーを過ぎて一気にスパート、あっさり先頭に立つ。
最後の直線、息の長い末脚を繰り出し
て馬場の真ん中を猛追するストロングクーガーが残り150メートルでその背を捉えた。
そして、激しい叩き合いの末、首差で栄冠を獲得したのがストロングクーガーであった。
6月中旬、2頭が勇躍フランスへと乗り込んだ。
2週間の調整期間を、親交のある森永厩舎のサポートを受け、万全の体勢を整えた2頭が挑んだサンクルー大賞(G1芝2400メートル)•••サンクルー競馬場に集まった大勢の観客は、激しく叩き合う3頭の大激戦に目を奪われた。
英国の長距離王者、最長4000メートルのG1ゴールドカップを4連覇中のストレスフリーが参戦し1番人気を背負い、次いでストロングクーガー、アモルファスが続いたこのレース•••果敢にアモルファスがハナを奪い、フランスの重い洋芝も何のその、天才鷹の変幻自在の手綱捌きに導かれ、ストレスフリーとストロングクーガーの猛追を首差しのぎ切り、G1レース2勝目を海外で飾るという偉業を成し遂げたのである。
2頭の次走は予定通り、10月中旬に開催される欧州最高峰のレース•••ホースマン達の飽くなき挑戦は続く。
PS•••いつもお目に留めて頂き、心より感謝申し上げます🥹🙏
次回配信は、7月10日水曜日午前8時です🕗
翔馬が異国での触れ合いの中で、思い出に浸り•••。あれからもう20年。時の流れは、正に光陰矢の如しかな。
思い出は永遠。
それではまたお会いしましょう🥺🙏
AKIRARIKA