翔べ君よ大空の彼方へ 2-⓭ 初戴冠
「バッケンレコード、スターダイナマイト激しい叩き合い!3番手、内からユーアーマインその差1馬身!しかし大〜外からゲメインシャフト!大〜外からゲメインシャフトが一気にやって来た!並んだ並んだ!心臓破りの坂を難なく駆け上がる!ゲメインシャフトだ!ゲメインシャフトだ!あっという間に突き放した!なんという末脚だ!2馬身から3馬身リードを広げた!有馬の借りはここで返すぞ大空翔馬!ゲメインシャフトが今ゴールイ〜ン!
大空翔馬が初G1を、ゲメインシャフトでホープフルステークスを、有馬の借りをこの舞台で返しましたあ〜!勝ったのは大空翔馬騎乗ゲメインシャフトです!」
ゲメインシャフトをクールダウンさせている翔馬に、次々とライバルの人馬がやって来ては、鞍上が祝福のグータッチを求め、翔馬も拳を差し出す。
スタンド前まで戻って来た翔馬。
大地が割れんばかりの大歓声と、翔馬コールが大波のようにこだまする。
翔馬は下馬をしてゲメインシャフトの長い首を抱き、スタンドに向かって一礼した。
「翔馬!翔馬!翔馬!翔馬!・・・」
彼の瞳に涙はなかった。
サムズアップした右手を大空に突き上げた。満面の笑みを浮かべて。
彼が先頭でゴールを駆け抜けた時、世界中のあらゆる場所で歓喜の大歓声が湧き上がった。
「兄ちゃんがやったあ〜G1勝ったあ〜‼︎」
「やったあ〜お年玉だあ〜❤️」と、叫んでいる北の大地の子供達。
「万歳!万歳!万歳!ウチの馬じゃないけど万歳!」と叫んでいる某牧場のスタッフ一同。
「あなた、またサツマイモとにんじん贈らないと!」
「翔馬君おめでとう!」と、祝福する農業試験場の夫婦。
夕方訪れる、北海道からの予約客25人に提供する料理の下拵えに余念がない、競馬場から程近い居酒屋のオーナー。
「congratulation!!」
彼の部屋に集まった騎手達にバチバチと肩を叩かれ、《俺が勝ったんじゃないんだけど》と、苦笑いをする好敵手。
そして・・・
大好きな人のG1勝利に、少女の瞳に溢れるものが・・・。
その家族達も、オーナーも、調教師も、翔馬を待ち侘びる多くのファン達も皆、笑顔と涙で喜びを噛み締めた。
「G1初勝利、おめでとうございます!」
「ありがとうございます!」師走の寒空を切り裂くような大歓声が湧き上がった。
「それにしても物凄い脚でした。第4コーナーで少し外に膨れたように見えましたが?」
「とにかく、馬場の良い外側を意識していました。彼も外側の芝を気持ち良く走ってくれました」
「有馬の悔しさ・・・この舞台でリベンジを果たす事ができましたね?」
「とにかく、関係者がしっかりと仕上げてくれましたし、彼が本当に頑張ってくれました。そして、応援してくださった皆さんの後押しが・・・・・・力を与えてくれました」
込み上げる何かをグッと堪えて言った翔馬に、観衆の温かい拍手が鳴り止まない。
「来年・・・この馬で見据えるものは何でしょうか?」
「そうですね・・・応援してくださる皆さんの期待に応える事が出来るよう全力を尽くします!本日は寒い中の応援、本当にありがとうございました!」
ファンは結末を想像し、騎手は結果を創造する。
多くのファンはこの結末に満足し、人馬の未来を想像し、騎手は自身が創造したその結果に未来への自信を得た事だろう。
人と馬との、夢と絆の物語は果てしなく続いていく。
PS・・・いつもお目に留めて頂き感謝します。次回配信は8月19日土曜日、午前8時です。翔馬が寮を追い出される⁉︎ではまたお会いしましょう😊
AKIRARIKA