翔べ君よ大空の彼方へ　　　　　9-❺ 賑やかな輪

→AKIRARIKA←

2025年1月4日 12:00

　夏休み真っ盛り•••蝉の鳴き声にも負けない子供達の歓声が、広い馬場内に響き渡る。馬の背に揺られながら、ゆっくりと、ゆっくりと歩みを進めながら。

　滋賀県は栗東トレセンに程近いホースパークに、そのメンバーの笑顔があった。

　北の牧場の子供達•••尾形とんぼ•うさぎの中学生姉妹、小学4年の駿馬の3人、高校2年の未来、そしてクリストフ•エリー•••馬も子供も元気な夏、である。

　3日前、高知県は足摺岬に程近いお寺にその一行の姿があった。

　想い人に会う為であった。
皆で協力してお墓を清め、エリーは向日葵を供えた。
　今は天国で眠る想い人の大好きだったそのお花を。

　3人は瞑目し、手を合わせた。
潮騒の音と、数匹の真白の蝶に見守られながら。

　
　翌日、一行は滋賀県にある目的地へと向かった。
　琵琶湖を見下ろす高台にある墓地•••彼の微笑みのレリーフを見つめながら、一行は彼が大好きだった君影草の花を飾った。

〝未来さん元気ですか？僕は特に大きな病気をする事もなく元気に頑張っています。きっと乗馬に出会えたからですね。
　もっと良い成績を残せるように努力します。優秀なコーチに恥をかかせるわけにはいかないので。

　未来さん、僕は本当の夢を見つけました。翔馬さんが言ったんです。
　「夢は見るものじゃない。叶える為のものだ！あのフェニックスルージュのように、命を掴み取った君なら、絶対に叶える事ができる筈だ！」って。

　未来さん、見ていて下さい。
僕は、必ず叶えてみせますから！〟

　一陣の柔らかな風が君影草の花を優しく揺らす。

　高台から見下ろす琵琶湖は、万華鏡のようなキラキラとした輝きを放っていた
。

　楽しい夏休みの1日であった。
「いらっしゃいませ〜お待ちしておりましたあ〜！」

　小学生となった玲奈がしっかりと来客のお出迎えをし、一行は乗馬トレーナーの歩夢宅にお世話になる事となった。

　テーブルの上に並ぶ山盛りの唐揚げと、久美自慢の特製牛タンカレーとシーザーサラダ、そして食後のフルーツパフェでお腹は満たされ、様々な話題が飛び交う楽しいひと時を過ごしている様子である。

　「それにしてもゲットアチャンス強かったよね！持ったまま5馬身、さすがファイアスターとレトロワグラースの子供だよ」

　「ライズフェニックスも強かったよ！1600メートル余裕で逃げ切ったもん！今頃フェニックス、フランスでくしゃみしているかも！」

　「エリーさん、フェニックスは？」
　「もちろん元気！お仕事も頑張ってるし
、たま〜にハードルも飛ぶんだ！」
　「へえ〜〜‼︎」

　「とんぼちゃんファイアスターは？」
　「うん！めっちゃご飯食べて、体も大きくなったよ！さすがに柵を飛び越えるのはもう諦めたみたい！」
　「アハハハハ！」

　「未来君、大会来月だよね！」
　「うん！ライバルは多いけれど、上位目指して頑張るよ！」
　「ダメだよ！上位なんて！目指すは1つ
！」
　「うさぎちゃんも乗馬本当に上手になったね！余計な力が抜けて、馬への当たりが本当に柔らかくなったよ！」
　「ありがとうございます！でも、金メダリストのエリーさんに比べたら•••恥ずかしい•••」
　「そんな事ないよ！いずれは、未来君のライバルに！」

　「パパ、玲奈にも乗馬教えて欲しいよ
〜〜！」
　「エリーお姉ちゃんが今年のオリンピックに出てたら優勝だったのになあ•••」
　「アハハ！大学忙しいからねえ•••でも、4年後は分からないよ‼︎」
　「ええええ〜⁉︎」

　「加奈お姉ちゃん頑張ってるかなあ•••」
　「うん！彼女なら大丈夫！きっとやり遂げるさ！」
　「駿馬君も将来ジョッキーになるんだよね⁉︎」
　「うん！パパが、お前は大空翔馬を超えるジョッキーになれる！って」
　「おお〜それは大きく出たなあ‼︎」

　いくつかの飛躍の時を目指す若者達がそれぞれの話題で盛り上がっていたその時、ミッキーマウスのチャイム音が鳴った。

　「来たっ‼︎」喜びの声が挙がった。

　「ハ〜〜イ！」猛ダッシュで玄関へと駆け出す玲奈。

　賑やかなる輪に加わる、縁の中の主人公。

　歓声が沸き挙がった。