翔べ君よ大空の彼方へ 4-❺ 天馬誕生
命を産み出す神聖な時間が始まった。
破水が始まり、尾が汚れないように包帯で包んでいく。
戦いが始まったのだ。
仔馬の両前脚が出てきた。
彼女が陣痛に合わせて大きく喘いだ。
空を掻きむしるかのように四肢が動く。
鼻先が見えた。
何度も方向を変え、彼女自身も命を産み出そうと必死であった。
仔馬の肩が出てきた。
もう少し•••あと少し•••。
翼は彼女の瞳を見つめ、エールを送った。
「マイ、もう少しだぞ!頑張れ!」
彼女は、翼の檄に応えるかのように最後の力を振り絞った。
そして•••
ついに•••
この世に誕生したのであった。
スタッフが仔馬の体をバスタオルで丁寧に拭いて、仔馬の鼻の中に溜まった羊水を吸引し、呼吸を確保した。
息吹を上げた仔馬。
彼女が仔馬を何度も舐め、
〝立ちなさい〟と、促している。
仔馬は立ち上がろうとしては尻餅をつき、それでも諦めずに、この大地に生を得る為に戦いを続ける。
この戦いが、彼の一生を決めるのだ。
スタッフ達は見守るばかり。
皆、心からのエールを送った。
そして•••この世にその姿を現してから僅か10分後に、彼は自力で立ち上がったのだった。
それはまさに、神が与えた真の奇蹟であった。
蒼穹の如く、光り輝く蒼き馬体。
透き通るかのようなその青の馬体からは、内に秘めたる生命力を表す、炎のような熱い息吹が、玉の汗となり発散されていた。
額の上部に燦々と輝いている、星型の白斑、額から鼻筋にかけての、まるで炎のような白い流星は、母の父オルフェーヴル譲り、そして前後肢全ての管から蹄にかけては、父、モーリスからの遺伝であろう、まるで白いソックスを履いているかのように白く輝いていた。
何よりも目を引くのは、翡翠色に輝くその瞳、そして、白銀の如く輝くたてがみと尾であった。
この世界にいるものならば、誰もが一目見て、類い稀なる能力を持つ馬だと感じるだろう。
青と白、そして白銀のコントラストが美しい、正にこの世のサラブレッドの傑作である。
彼は今、母馬の初乳に必死になってかぶりついていた。
その姿は、この世に生を受けた喜びに満ち溢れていた。
人々の希望を、期待を一身に背負う宿命を理解しているかのように、やがてターフへ羽ばたくその日を嬉々として待ちわびているかのように。
〝翔馬•••こいつは•••奇蹟の馬だぞ!
お前がこの世に送り出した馬なんだぞ!
待っているぞ!早く戻って来いよ!〟
翼は、夜明け前の空を見上げた。
天馬の前途を祝福するかのような満月が煌々と光輝いていた。
3月3日、午前3時3分春暁の刻••• 1頭のサラブレッドが、この世に誕生した。
後に、世界中に大旋風を巻き起こす天馬、ファイアスターの誕生である。
終業のベルと同時に、脱兎の勢いで教室を飛び出そうとする中学生が1人。
「エリー、今日ジェラード食べに行く日じゃ•••」
親友のジュリエットが、その背に声を掛けた。エリーは教室の出入り口で一瞬立ち止まり、両手を合わせて言った。
「ジュリエット、悪いけどジェラード持って家に来てくれない?途中で溶けてしまうかもしれないけど」
エリーはそう言い放つと、牧草地で草をはむ繁殖牝馬目掛けて、柵を飛び越え突進する種馬の如く、今度こそ本当に姿を消してしまった。
一陣の砂嵐の後に残されたのは、親友の苦笑いである。
「どうせフェニックスでしょ!それに、絶対に溶けるに決まってるじゃない!」
親友は呆れ果てながらも、ジェラード店からエリーの牧場までの25分の距離を、いかに溶かさずに届けるかを考えながら自席を立ち、クラスメートに、
「また明日〜!」
と手を振って、校庭横にある自転車置き場に向かった。
春の光に照らされた、金色に輝く長い髪を揺らし、エリーは一心不乱にペダルを漕いでいた。
道の途中にあるハンバーガー店にも、最近出店した流行のマカロン専門店にも目を向けずに、下り坂で勢いをつけ、上り坂では立ち漕ぎの姿•••学校から自宅までは20分、急げば15分•••
急がば回れ!ならぬ、急ぐならまっすぐ!
エリーは、牧場へと続く一直線の道を
まさに全速力で駆け抜けていった。
「やっぱりね•••」
エリーの嫌な予感は的中した。
昨年と全く同じパターンであった。
目の前には、母馬の初乳に夢中になっている生まれたての栗毛の仔馬。
ウッドも陽子も目を合わせて笑っていた。
「レザンドリー、あと1時間だけ待ってくれてもいいじゃない•••」
エリーが馬房の中に入り、レザンドリーの鼻面を優しく撫でながら笑った。
レザンドリーがエリーの頬をペロっと舐めた。
「でも、よくがんばったね!」
仔馬に初乳を与えているレザンドリーは誇らし気にその雄大な馬体を力強く揺らした。
奇しくも天馬誕生と同日、ここフランスでも、世界の競馬史に名を刻む競走馬が誕生した。
その名はサイレントマジョリティー。
父は、ラストランを見事に飾り4年前に引退、現在日本にて種牡馬として活躍中の無敗の三冠馬、母はフランスの至宝ムーランルージュの直仔レザンドリー••• 3年後にフランス牡馬3冠レース全てを圧勝し、ファイアスターとパリロンシャン競馬場で激突する名馬である。
その仔馬もまた、生命力に満ち溢れていた。
しっかりと大地を踏みしめて、母馬に寄り添い、エリーを見つめていた。
エリーはこの景色を、心に思う大切な人に見て欲しいと、心から願った。
誕生の春であった。
PS•••いつもお目に留めていただき、心より感謝いたします。ついに、ついに
ファイアスターが目覚めました。
彼の成長を、そしてライバルのサイレントマジョリティーをも見守っていただければ幸いです🥺🙏
大空翔馬は何処へ?
今年の配信は今回が最後。
次回配信は年明けの、令和6年1月3日午前8時です。バレットの歩夢と彼女の久美、そして未来少年が彼への思いを語ります。
有馬記念•••素晴らしき戦いでした。全馬が全力を尽くし駆け抜けた2500メートル•••新たなるドラマがまたもや生まれましたね👍👍ヒーローのヒロイン達の来年が楽しみです😊
ラストの2歳G1ホープフルS!
牝馬としては初めてこのレースを制した
レガレイラ🐴💨瞬発力は、他馬とは一線を画すもの😅順調に育てば、途轍もない名牝になるのではないでしょうか?
あの瞬発力を東京で見てみたいです!
私見ではありますが、現段階でのダービー候補3頭は、前述のレガレイラ、新馬戦脅威の末脚を見せたビザンチンドリーム
、そして朝日杯で最後方からの怒涛の鬼脚を披露した武豊騎手騎乗のエコロヴァルツ•••でしょうか?
さて、これからクラシックを賑わすであろうヒーロー、ヒロインが新たに現れるのか?楽しみしかありません😊😊
今年一年、拙作に目を通していただき
心より感謝申し上げます🙏🙏
皆様、どうぞ良いお年をお迎えくださいませ🙏🙏
AKIRARIKA
🐴🔥⭐️💨🐴🔥⭐️💨🐴🔥⭐️💨🐴🔥⭐️
2023年も終わりが近づきました。
金杯から始まって、ラストのホープフルS(正確には12レースがありますが)で終わった競馬デー🐴📣。
ルメール騎手に始まり、ルメール騎手で終わった1年😅。一矢報いたのは川田将雅騎手!最高勝率賞を受賞、勝率3割越えは素晴らしいの一言👏👏来年のリーディング奪取に期待しましょう🔥🔥
ある日の出来事•••
仕事が終わり、郵便ポストを覗いてみると、何やら郵便物が😳
手に取った瞬間喜びが溢れました🤩
さあ、これで新年を迎えることができます🤭🤣
それではまたお会いしましょう🙇🙇
AKIRARIKA