翔べ君よ大空の彼方へ 3-❹ いざ英国へ
数多くの名馬を輩出したジャックルマロワ賞は、〝デスティナシオンフランス〟の名称で呼ばれており、日本馬への優先出走権付与対象競争として指定されている。
ヴィクトリアマイル・安田記念の1〜3着馬を対象として、登録料免除、輸送費補助等の特典があり、この制度を利用したのが、NHKマイル覇者であり、前走安田記念を逃げ切った八木厩舎所属のレトロワグラース(牝4)である。
八木師は米国、香港、サウジアラビア、ドバイでの国際G1競争10勝を誇る、海外実績では他の追随を許さない国際派調教師であり、オーナーはフランス競馬に造詣が深く、この時期に開催されるアルカナ・オーガストイアリングセールに毎年の出席を欠かさない事から、距離、斤量、相手関係・・・条件に見事に合致するこのG1に照準を定め、翔馬に引き続きの騎乗依頼をした。
「行けるだけ行ってくれないか!」
八木師とオーナーの進言を翔馬は笑顔で受け入れた。
〝この子・・・本当に根性あるからな。ハイペースの持久力勝負に持ち込めばいけるかも・・・〟
「任せてください!」
英・愛・仏・伊・米・日本・・・6カ国のマイルチャンピオン8頭を含む12頭によるこの戦い・・・臆することなくレースの主導権を握ったのは、大外枠から一気に飛び出した翔馬とレトロワグラースであった。
高速ラップを刻み、自ら叩き出した東京1600メートル1分30秒1の驚愕の前走の再現か⁉︎残り300メートルまで2番手に4馬身半の差を付け、快挙達成か⁉︎と思われたが、残り100メートルで地元フランスのサンチャリオットマンダルーンと、アイルランドのサンセットクルーズが猛追、火の出るような3頭の叩き合いの末、
サンセットクルーズを競り落とし、勝負はサンチャリオットマンダルーンとの写真判定にもつれ込んだ。
結果は惜しくも鼻差でサンチャリオットマンダルーンに敗れたものの、その胸をすくような逃げを見せた翔馬に、満場から〝ショーマコール〟の大合唱が沸き上がった。
レトロワグラースの父が、仏ダービー、英チャンピオンS、愛チャンピオンSを制し、全欧3歳牡馬チャンピオンとなった仏屈指の名馬であり、種牡馬生活7年目に入るものの、日本国内ではなかなか活躍馬を輩出できない現状を打破する可能性の走りを見せた、日本からやってきたマイルチャンピオンの彼女への賛辞も数多く含まれていた。
この日も4勝を挙げ、ドーヴィルはショーマコールに占拠された2日間であったが、最終レースが終了した後も観衆は帰宅する事なく、翔馬の登場を今か今かと待ち構えていた。翔馬サイドから何らかの発表があるという事であった。
やがて、翔馬とマネージメント会社のスタッフが、急遽ウィナーズサークル上に設置された記者会見席に現れた。
発表されたのは、ショーマファンが歓喜の叫びを上げるほどの内容であった。
それは、翔馬が1ヵ月半後再びフランスに舞い戻るという発表であった。
凱旋門賞が開催されるパリ・ロンシャン競馬場では、6つのG1競争が同日に開催される。
2歳牝馬限定のマルセルブサック賞(芝1600メートル)、2歳牡牝のジャンリュクラガルデール賞(芝1400メートル)、2歳上〜のアベイユドロンシャン賞(芝1000メートル)、3歳上〜のフォレ賞(芝1400メートル)、3歳上牝馬限定のオペラ賞(芝2000メートル)、そして凱旋門賞である。
これら6競争のすべてに、日・仏・英・愛の競走馬で参戦するという。世界中のショーマファンが、フランス全土が歓喜に満ち満ちたのは言うまでもない。
その瞬間から、その日に向けての戦いが始まったのだ。
渡航予約、宿泊予約・・・その日の翔馬の勇姿を両の眼に刻み込む為に!
「待ち切れないよねG1デーが!でもその前に明後日だね!」カレーソースにおにぎりを浸したウッドが言った。
「ハイ!ロッシさんは敵ですけどね。お手柔らかにお願いします!」
賑やかな食卓に重なる会話と笑顔が、翔馬に力を与えてくれる。5歳になったヴェロンがアップルパイを頬張りながら言った。
「お兄ちゃん、ガンバレ!」
なかなかに上手な日本語であった。母親に行儀が悪いと怒られていたけれど。
いざ、英国へ!
ライバル達が翔馬を待っている。
PS・・・いつもお目に留めて頂き、心より感謝致します😊次回配信は10月21日土曜日午前8時です。翔馬と未来が英国入り。世界の名馬達の一大決戦前夜。さあ、どうなる?それでは皆さん、またお会いしましょう😊🙏
AKIRARIKA
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