翔べ君よ大空の彼方へ 6-⑭ 一心同体
翔馬はファイアスターの正面に立ち、美しい鼻面に触れながら呟いた。
「さあ、いよいよだぞ!一緒に頑張ろう!」
ファイアスターの翡翠色の瞳が輝きを増した。翔馬は勢い良く彼の背に跨った。
高級車のような乗り心地の良さを感じさせる、その柔らかい背中。
機能性に富んだ骨格に秘められた、ゴムまりのように柔軟な、且つ力強い筋肉。関節のつなぎも柔らかく、そのフットワークの軽さは翔馬が過去に騎乗したどの馬とも共通項がない、ある意味別次元の馬であると言えた。
〝さあどうするファイアスター、お前思いっきり走りたいんだろ?〟
愛馬は熱き太陽の日差しを浴びながら
、気持ち良さげに緑のターフを駆けている。
翔馬は、彼の能力を最大限に発揮させるにはどうしたら良いのかを考える。
正直、この馬にはポジションも、展開も一切関係ない。ただ、気分良く走らせてあげるだけだ。
逃げようが、追い込もうが、直線では、必ず空気を切り裂くような超絶の瞬発力を見せるのだから。
前に馬を置いて壁を作り、馬群を縫ってくる方が闘志に火が付くのか、あるいは付いて来れるなら付いて来い!と、一気のスピードと無尽蔵のスタミナを生かすのか、どっちでもいいぜファイアスター!お前に任せるさ!
翔馬は笑みを浮かべた。
愛馬もまたその瞳を輝かせ、いよいよ始まる戦いの刻へ胸を昂らせるかのように
、自らの脚取りを確かめていた。
スタートが近付いた。
輪乗りを終え、ゲートへと向かう。
何せデビュー戦•••精神的に幼い若駒を導く各騎手も細心の注意を払いゲートへと導こうと苦慮している様子。
熱り立ち、後退り、口を割って尻りっぱねをする馬が多数いる中で、彼は溢れんばかりの闘争心を内に秘め、すんなりと8枠15番のゲートへと収まった。
〝よくぞここまで•••〟
翼は落ち着き払っている愛馬の様子を双眼鏡で眺めながら、ここに至るまでの道程に思いを馳せていた。
オーロラに祝福された奇蹟の馬。
生まれ持ったその資質、類い稀なるその潜在能力。
牧場時代はとてもやんちゃで、柵を飛び越えては、あらゆる場所に姿を現す神出鬼没振り。
馬房の寝藁まで食べてしまう大食感で
、寝藁をチップウッドに替えたスタッフに睨みを効かす程の食いしん坊で、負けず嫌い。
それでも、指示には至って従順で、生まれて1年待たずに頭絡を、馬銜を、鞍を、鎧を着け、怖がる事なく翼を乗せて駆け始めた。夢を見ているかのようであった。
〝早く帰って来い!〟
心の修行をしている親友へ、エールを贈った。
そして•••待ち人来たる!
人馬の未来へのスタートが始まったのだった。
育成牧場への出発の日、彼は高らかに嘶いた。見送るスタッフ達を睥睨しながら。
それは、彼の宣言であった。
〝俺は、誰にも負けない!〟との。
移動先の育成牧場からは、賞賛の報告が続々と届いた。
日々成長を遂げる愛馬の動画を眺めながらも、一抹の不安を覚えずにはいられなかった。
肉体面、精神面•••あらゆる意味で繊細なサラブレッドは、いくら高い能力を持っていたとしても、脚元の丈夫さや体質の強さ、そして人の指示に従う従順さがなければ、その名をこの世界に刻む事は叶わない。
メンタルとフィジカルの両立•••成長曲線の度合いを探りながら、持って生まれたその能力を最大限に発揮させる為に、日々彼に向かい合った育成牧場スタッフ
、並びに調教師、厩舎スタッフ•••チーム一丸総力戦で挑み続け、まだ見えぬ栄光を掴む為のスタート地点に、今日こうして立ったのであった。
後は人馬に任せるだけ•••翔馬、頼んだぞ!そして、ファイアスター•••どこまでも駆けて来い!
スタンドは静まり返り、今や翼の周りにいる仲間達もそれぞれが双眼鏡を手に、その瞬間を目に焼き付けようと、戦闘体制を整えていた。
鼓動がはっきりと翔馬の身体を包み込んだ。
小柄な馬体に秘められた、大型ジェットエンジンの源である、その心臓の鼓動が。
翔馬は瞑目した。彼と一体になる為に
。互いに無心となり、呼吸を整え、静かにその時を待つ。
やがて•••鼓動が重なった。
翔馬が瞑目を解いたコンマ数秒後、夏の熱気を含んだ空気を切り裂くかの如く、乾いた金属音が競馬場に響き渡った。
PS•••いつもお目に留めて頂き、心より感謝申し上げます🥹🙏
次回配信は、7月24日水曜日午前8時です🕗新潟競馬場に衝撃が走ります🐴😳
怪物がターフを蹴散らし💨🔥😳
それではまたお会いしましょう🙏🙏
AKIRARIKA
ある日の神社、お寺巡り🙏🚶🙏
それではまた🤭🤭