翔べ君よ大空の彼方へ 7-❽ 最強の自負
「あ!お姉ちゃん達やっと来た!」
弟のヴェロンが手を振っている。関係者席に揃いも揃ったクリストフ一家。牧場開場以来、初の歴史的快挙達成成るか?
である。
単勝支持率は何と1.0倍。
生産牧場一家が恐れ慄くのも無理は無いだろう。
バルザ、ローザ、ウッド、陽子、ヴェロン、そしてオーナーのロッシも、皆ガチガチになって愛馬を見つめていた。
ドレスアップしたその姿が滑稽に見えたのだろう•••呆れ果てた様子でエリーが檄を、喝を入れた。
「ちょっと〜何でロッシおじさんとパパまで固まっちゃってるのよ!おじさ〜ん、自分の馬でしょ!愛する息子でしょ
!パパ、人の気持ちは馬に伝わるっていつも言ってるのパパでしょ!まったく情けない•••」
あの泣き虫エリーが大きく成長し、2人をどやしつけているのを見て、周りの競馬関係者からは忍び笑いの波が広がってゆく。
「先生が言ってたわ!何の問題もないって!作戦は彼の気分次第だから何とも言えないけどって言っていたけど、いつもの事だもんねww」
一国を背負う女子高生の一言に、一行は一斉に振り向いた。
仏3歳牡馬最終三冠目、パリ大賞典(2400メートル)•••いよいよ始まる真夏の大挑戦であった。
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すべての者が目を疑うほどの光景が、眼前で繰り広げられていた。
〝これは現実なのであろうか?〟
誰しもが声を無くしていた。向こう正面
、先頭をひた走るサイレントマジョリティー•••2番手との差は約20馬身、遥か彼方後方であった。
肉を切らせて骨を断つかのような狂気の逃げではない。何故なら彼は臆病では無いから。臆病すぎる性格ゆえに逃げる選択肢しかない狂気の逃げ馬では無いのだ。
彼は、サイレントマジョリティーは自身の可能性に挑戦しているのだ。
スタートからゴールまでを、後続をまったく寄せ付けずに、そのスピードとスタミナの絶対値で完全制圧する。
果たして、そんな事が可能なのであろうか?
圧倒的なスピードを持つ馬はいるであろう。しかし、どれほどの距離を持たせることができるだろうか•••やがて心臓が悲鳴を上げ、そのスピードを持続する事のできる馬は殆どいないはずだ。
2400メートルのレースで、スピードとスタミナの絶対値で影をも踏ませぬ、
いや、姿さえも消し去ってしまう程に圧倒する•••実現できる馬は、この世にいないはずである。
しかし•••彼は、サイレントマジョリティーは今、正にそれを成し遂げようとしているのであった。
超満員に膨れ上がったパリ•ロンシャン競馬場•••もはやどよめきさえ起こらない
。実況アナウンサーでさえ言葉を失っていた。
ただ、静寂あるのみ。
彼らが、いや彼がターフを駆けるその音のみが競馬場を支配していた。
もはや•••彼の後ろには誰もいない。
バシュロンは後ろを振り向く事さえしなかった。
景色が異常なスピードで過ぎ去っていく。ともすれば、意識が埋没しそうになるのを留める事に集中していた。
彼は思った。
見えない敵とでも戦っているのだろうか
?と。
〝まあ、好きなようにすればいいさ!〟
サイレントマジョリティーは、雲の上を駆けるかの如く、他馬との差を広げ続けていた。
大観衆が夢から醒め、現実へと意識を取り戻したのは、彼が最後の直線、威風堂々と姿を現したその時であった。
アナウンサーの、大観衆の絶叫、興奮
•••驚天動地、スタンドが揺れていた。
2着馬が入線したのは、彼がゴールしてから5秒後•••着差に換算して約30馬身。
彼は•••確かに成し遂げたのであった。
「今日、世界に王者が誕生しました。
仏三冠馬サイレントマジョリティーです
‼︎」
息を整え、堂々仁王立つサイレントマジョリティーとB•バシュロンを盛大に讃えるスタンディングオベーションが鳴り止まない。
彼は、人差し指を口に当てて、そして続けた。
「しかし、今この海の向こうにも王者にならんとしている勇猛な者達がいます!
私は、彼等と戦いたい!カケル、ファイアスター•••この場所で待っているぞ!」
スタンドが、競馬場全体が大きく揺れ
、3冠馬誕生を祝う歓喜の雄叫びと、夢の対決への胸の高鳴りを抑え切れない大観衆のエールとコールが湧き上がった。
雲一つない真っ青な空、沸るような暑い太陽の下、史上最強の仏3冠馬が誕生したのである。
PS•••いつもお目に留めて頂き、心より感謝申し上げます🥹🙏
次回配信は、9月11日水曜日正午🕛となります。
2028年、ロサンゼルス🇺🇸オリンピック•••不死鳥フェニックスルージュとクリストフ•エリーが遂に夢の大舞台へ🐴👸
君とならば、どんな障害も乗り越えていける🐴💨🔥😤さあ行こう💨‼︎
それではまたお会いしましょう😊😊
AKIRARIKA