翔べ君よ大空の彼方へ 7-❹雄飛
競馬後進国である日本は、競馬発祥の地である英国に範を取り、常にその背中を追い掛け続けてきた。
海外挑戦をしては敗退し、涙を流しながらも尚、挑戦し続けた先人達。
思い通りにならない事はホースマン達の常である。
人馬がどれ程最善を尽くしても、散々たる結果を招く事は日常茶飯事である。
勝者は、ほとんどの場合1頭だけに与えられるからだ。
しかし、最善を尽くさねば素晴らしい結果を、素晴らしい1日を手にする事はできない。その積み重ねがいつか花開くと信じて、日々最善を積み重ねる。
それが、世界のホースマン達の人生である。
今、その競馬発祥の地で戦いに挑む人馬の姿があった。
広大な空から、エプソムダウンズ競馬場を照らす春の暖かな陽光が降り注いでいた。
場内には、数多くのユニオンジャックが掲げられ、〝ターフのブルーリボン〟と称される英ダービーの開催を祝う、数え切れない程の観客でスタンドは埋め尽くされていた。
その中には、日の丸国旗を掲げる応援団の姿も多数見られた。
英王室と競馬の強い繋がり。
その関係の深さは、すべてのサラブレッドを天国で見守っているであろう、競馬を愛したエリザベス女王がオーナーブリーダーでもあり、複数の王立牧場を経営していた事からも分かろうというもの•••レース前には盛大な式典が催され、着飾った紳士、淑女、そしてドレスアップ姿の子供達の笑顔で、競馬場は華やかな雰囲気に包まれていた。
いよいよ始まる英国の2つ目の山頂へのアタック。
1つ目の頂上•••英2000ギニーで観客は彼の真の強さを目の当たりにし、驚愕と
、そして最大の賛辞を贈る事となった。
日本から勇躍英国クラシックレースに参戦したファイアスターは、前走からの400メートルの距離短縮と、異国での馬場対応が不安視されたものの、2戦連続の圧倒的なレコード勝ちと、不良馬場で行われたG1レースでのその驚愕のパフォーマンス、その絶対的能力が彼の評価を正当に押し上げ、昨年の欧州最優秀2歳牡馬で、デューハーストS(芝1400)、フューチュリティトロフィー(芝1600)のG1レース2勝馬であり、前哨戦のクレイヴンSを圧勝した、4戦無敗のリアルエモーションと単勝オッズほぼ横並びの、僅差の2番人気に支持された。
15頭立てで行われたこのレース••• 1分30秒後に世界は衝撃に包まれる事になった。
ニューマーケット競馬場のローリーマイルコース、良馬場で行われた直線レース••• 1枠2番から飛び出したファイアスターは、抜群のスタートからあっという間にハナを奪い、14頭をその背に従える、逃げの手に打って出た。
洋芝を苦にせず、軽快に脚を伸ばすそのスピードは、本場英国のホースマンを
、観客を唸らせるのに充分であった。
3馬身のリードを取りファイアスター先頭•••満を持して3番手から追撃を開始したリアルエモーションが残り300メートルで馬体を併せるか!と思われたその瞬間、彼はその規格外のエンジンを、スロットルを吹かせたのである。
大空翔馬のステッキ一発に瞬時反応した彼は、迫りくる蹄音をあっという間に遠ざけてしまったのである。
1馬身、2馬身、そして 3馬身•••2着リアルエモーションに何と6馬身の差を付け、見事英2000ギニーを制覇、日本調教馬として初の英クラシック戴冠を成し遂げたのであった。
人馬は、広大な空に流れるように伸びてゆく飛行機雲を見つめていた。
堂々、王者として挑むこの戦い。
右回り、左回り、直線コース、良馬場、不良馬場、逃げ、先行、捲り、輸送•••何でもこなしてきた人馬には楽しみしかないのであろう•••彼はいつもの様にパワフルに、そして弾けるようなスピードを見せて、馬場を検分するかのように首をグイっと下げて駆けている。
翔馬は馬上からファイアスターにエールを贈った。
「YOU ARE STRONG HORSE!I HAVE
CONFIDENCE!HERE WE GO!」
ファイアスターの全身に力が漲った。
PS•••いつもお目に留めて頂き、心より感謝申し上げます🥹🙏
次回配信は、8月28日水曜日正午🕛となります。
いよいよ英ダービーの発走となります🇬🇧🐴🇬🇧🐴🇬🇧強敵揃いのメンバーの中、ファイアスターはどのようなレースをするのか?風を切り裂け!🐴💨🔥😤
それではまたお会いしましょう🙏🙏
AKIRARIKA
この作品を通して、養老牧場への牧草寄付等の引退馬支援を行います。その為のサポートをしていただければ幸いです。この世界に生まれたる、すべてのサラブレッドの命を愛する皆様のサポートをお待ちしております🥹🙇