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イチゴ味はどうだった?

シリーズ番外編です

J.GARDEN49エア参加の頒布ペーパー。


イチゴ味はどうだった?

 出会ってしまったら仕方ない。

「――先日は、お土産のケーキまで有り難う御座いました」

 理玖はテレビ局の廊下で、岬圭一にあってしまった。普段は出来れば顔を合わせたくない人間の一人だが、ドラマの共演者として名前が入っていれば、おそらく過去の蟠りなどなかったことにして理玖は共演を喜ぶだろうから、厳禁だなと思う。恋人の博人にわざわざ指摘されなくても自覚済みだ。もちろん才能と本人の性格が別問題なのは、何も自分に限った話じゃない。業界の人間は大体そうだ。

「どういたしまして。で、初恋のイチゴ味どうだった? あのあと盛り上がった?」
「……ごちそうさまでした」

 理玖は、スッと冷めた目で岬を見る。そう何度も遊ばれたくない。実際、岬が想像している通り博人とあの晩、初恋プレイまがいのことをしているので、これ以上深く突っ込まれたくなかった。

「そこは、焦って、顔赤くしたりしようよ」
「柄じゃないです」
「うちの葉山くんとか上手だよ。あざといの。照れて赤くなったり、涙目で慌てたり、勉強させてもらったら?」
「今、現場でさせてもらってます」

 先日から葉山とのドラマ撮影が始まっていた。

「そっか、もう撮影始まっているんだよね、ど、楽しい? 役者になって良かった?」

 岬は、目を細めて何だか眩しいものでも見るように、嬉しそうに理玖をみた。

「はい。とても」
「じゃあ、俺も、君に恨まれて嫌われた甲斐があったってことだね」

 岬は続けて悪い大人が見せるシニカルな笑みを理玖に見せたが、不思議と初めて出会った時ほど嫌悪感を感じなかった。

「――結構優しいし、良い人」
「ん? 何それ」
「昔、岬さんが言った言葉ですよ。自分で言う人いるんだなってあの時は思ったんですが」
「あぁあれ、オーディションの、覚えてたんだ。なに、もしかして俺のこと大好きになった?」
「いいえ、結果的に感謝はしてますけど、好きかどうかと言われると、ちょっと」

 理玖は即答して苦笑する。良い人でもないけど悪い人でもない。好きか嫌いかと言われると、役者としては尊敬しているし好きだが、人としては関わりたくない。

「面と向かっていうの、君らくらいだよ。ベテラン俳優に向かって、可愛くないなぁ」
「けど、岬さんは、面白い人が好きなんですよね」

 岬の酷く傲慢な欲求を指摘する。理玖がそう返すと、岬は少し驚いたように目を瞬かせた。自分を役者として飽きさせない人に向けられる熱っぽい瞳。それを自分に向けさせたいと思っている。

「――俺のこと、好きって言ってくれるみんなのことが好きだよ」
「それ、葉山さんの真似ですか?」
「君と違って、上手いだろ?」

 岬は笑うと、理玖の背の方へ視線を向ける。丁度時間になり、スタッフに呼ばれたようだった。

「じゃあ、またね」

 岬は理玖に向けて、ひらひらと手を振るとスタジオに入っていった。

おわり

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