01. デザイナーとその役割の変遷
様々な分野に「デザイン」や「Design Thinking」という概念が持ち込まれている。これには、— すでに何度も語られてきていることではあるが — Appleがビジネスにおいて「デザイン」が新たな価値を生み出す可能性があることを証明したからだと言えると思う。
数年前から日本国内外を含めデザイナーに対する需要が高まっている。代表的な職種名で書き表わせば、UI(ビジュアル)デザイナーやUXデザイナーといったところがあるだろう。これは、これまで物理的なプロダクトや建築といったすでに確立された分野においてプロダクトデザイナーやアーキテクトがになってきた「人間中心設計」を基礎としたプロトタイピングをするというプロセスをソフトウェア開発に関わるデザインに持ち込むことで、現代のビジネスと消費者にとって切っても切り離せないソフトウェアの品質・体験を担保・管理することを可能にするために起こった流れという風に認識することができる。Alan Cooperが提唱するGoal-Oriented Design Processなどはこれを代表するモデルである。
ソフトウェア開発に関わるこの新しいタイプのデザインは、これまでの「見栄え」や「アート」としての表層的なデザインと大きく異なる点がある。それはデザインのプロセスが、それ自体よりもさらに大きなプロセスの一部となったことにある。デザイン以前のプロセスのアウトプット(サービスビジョン、ビジネスモデル、カスタマージャーニー、etc.)を元に、デザイン以降のプロセスのインプット(ワイヤーフレーム、デザインモック、etc.)を製作し、次の担当者(エンジニアやマーケティング)へバトンを渡すという役割を担うようになっている。さらにデザインされたものを実際に使う人々(ユーザー)からのフィードバックにも常に目を凝らし、耳を澄まし反映させ続けていかなければならない。つまり、そもそもデザインプロセスがデザイナーだけで自己完結しない。
さらに、事業そのもののビジョンから体験までの一貫性を担保するために台頭してきたサービスデザインは、UIなどを含む目に見える物(Tangible)から目に見えない動的な要素と要素の連関(Intangible)をデザイナーが扱うことを推し進めている。
つまるところ今のデザイナーの役割は、MIT Media Lab Directorである伊藤穰一さんが言うように大量生産の中核を担う設計の専門家からサービスクラフトの制作を一緒に行う「参加者・ファシリテーター」になっている。
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On Design Rationale
00. Introduction
01. デザイナーとその役割の変遷
02. Design Thinkingとデザイナー
03. Design RationaleとDesign Methods Movement
04. Design RationaleとModel
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References:
Buxton, Bill.
Sketching User Experiences Getting the Design Right and the Right Design
Dubberly, Hugh.
Connecting Things: Broadening design to include systems, platforms, and productservice ecologies
Ito, Joichi.
Design and Science
Can design advance science, and can science advance design?