変容の媒体としてのクライアントワーク
この内容は、2021年12月4日(土)にサービスデザインネットワーク日本支部(SDNJ)主催で開催されたサービスデザイン・ジャパン・カンファレンス2021(Service Design Japan Conference 2021)のスポンサーセッションでの登壇内容をまとめたものです。
サービスデザインへ積極的に投資を始めてから初の専門領域におけるカンファレンス開催ということで、ゆめみもスポンサーとして参加させていただきました。登壇内容自体はゆめみを紹介する内容ではあったのですが、今回のカンファレンステーマが「社会のトランジションに向けた課題と挑戦」ということで、クライアントワークを生業とするゆめみと社会・企業との接合部分に着目し「変容の媒体としてのクライアントワーク」というタイトルでお話をさせていただきました。
登壇内容のまとめも紹介しつつ、本イベントの所感なども少しご紹介できればと考えています。
ゆめみのビジネスモデル
ゆめみは、デジタル領域におけるクライアントワークを主な事業として展開しています。その中で、「BnB2C(ビー・アンド・ビー・トゥー・シー)」というビジネルモデルを展開しています [1]。
これは、クライアント企業のビジネスの方針や戦略を理解し、同じ目線で「サービス企画」から伴走し、エンドユーザー向けのサービスを展開するビジネスモデルのことを指します。端的に言えば、クライアント企業のプロジェクトメンバーと「ワンチーム」になり、デジタルサービスの開発を進めていくということです。
ゆめみのブランドプロミス
ゆめみは「GROW with YUMEMI」というブランドプロミスを掲げています。これは、私たちがご支援するクライアント企業だけではなく、社会を含めたさまざまなステークホルダーに対して「ともに成長すること」を志向したメッセージです。
そういったブランドプロミスを実現するために、今年度から明示的に「内製化支援」という大きなテーマを掲げたサービスを提供し始めました。
ご支援させていただくクライアント企業の変容を実現するために、マネジメント、デザイン、エンジニアリング、データ分析といったデジタルサービスを開発・運営し続けるために必要な要素をマイクロサービスとして提供することで、スポットでも長期的な変容支援でもクライアント企業ごとのニーズにあった支援を可能にしています。
先ほどもお話ししましたが、ゆめみのビジネスは「BnB2C」という、クライアント企業とチームとなりデジタルサービスをデザインする「共創型」のアプローチをとっています。
「変容を促進する」というお話をしましたが、私たちが上から目線でアドバイスをする関係性でもなく、下請け的に単純な制作・開発を行うだけでもなく、クライアント企業のプロジェクトメンバーの方と同じ目線に立って、組織内のさまざまな課題にお互いの知見を持ち込んで、共に変容を実現することを目指しています。
変容の媒体
私たちがご支援させていただくクライアント企業様のご担当者様の多くは、デジタル領域のサービスをマネジメントされているようないわゆる「ミドル・マネージャー層」の方々です。
こういった方々は、組織内においてトップから提示されるあるべき理想とボトムであげられる向き合うべき現実と架け橋となり、物事を具体化を推進していくことが求められています[2]。
ゆめみの名前にもなっているように私たちのご支援の多くはこの「架け橋」「夢」を実現することを全力でサポートすることです。
今回の話のタイトルとして「変容の媒体としてのクライアントワーク」としておりました。少し小難しい話になりますが、私たちが実践する「内製化支援」という取り組みは、クライアント企業の中に入り込んで様々な活動を行うため、必然的に野中郁次郎さんと竹内弘高さんによる「知識創造企業」の中で提唱されたSECIモデルのサイクルを回していくことに繋がると考えています[2]。
私たちはプロジェクトの中で様々な場づくりや対話を行います。ここがクライアントワークが変容の媒体としての大きな役割だと思っています。外部パートナーとしてプロジェクトに関わることは、クライアント企業内に今まで眠っていた暗黙知を半ば強制的に引き出し、形式知として整理していくことで、私たちだけでも、クライアント企業内のメンバーだけでも考え得なかった新たな発見をデジタルサービスに実装していくことを可能にしていくと考えています。
知識創造としてのデザイン
ここで少し図を回転させてみます。
これは、私のメンターであるDubberly Design OfficeのHugh DubberlyとFjordのGlobal Design LeadであるShelley Evensonが2011年に共同で発表した、デザインとSCEIモデルの関係性を明らかにした論文を参考に作成したモデルです [3]。
デザインプロセスは、皆さんもご存知のように現状を把握して、新しい可能性を試していくというSECIモデルの「共同化」「表出化」「連結化」「内面化」とほぼ類似したプロセスを踏んでいます。
つまり、言葉にしてしまうと非常に当たり前のことですが、全てのクライアントワークは、どのような領域においてもデザインプロセスが活用されているということです。このようなデザインの捉え方は、とてもサービスデザイン的だと感じています。また、クライアントワーク自体を、クライアント企業と支援する私たちを含めた変容のための活動として捉え直すことを可能にします。
アプローチとしてのデザイン
デザインプロセスは、工程を表現しています。クライアントとのプロジェクトを進める上では、この工程を理解しておくことは非常に重要です。
一方で「変容」の度合いをしっかりと把握するためには、一過性のプロセスとしてデザインを捉えるよりは、デザインプロセスに含まれる取り組みの活用度合いをネットワーク的に可視化することが重要なのではないかと仮説を持っています。
そんな中、2019年にデジタルプロトタイピングツールを提供するInVisionが公開した世界の企業内におけるデザイン活用現状を調査したレポートの内容[4]とそれを参考に「デザイン成熟モデル」としてネットワーク構造化したデザインストラテジストであるデニス・ハンベーカーさんの記事 [5]を参考にして、デザインをアプローチとして捉え直すモデルを構築しました。
ここには、詳細までは説明できませんが、デザインにおける重要な活動として「共創」「戦略策定」「制作」「仮説検証」「組織化」の5つを挙げています。詳しくは、以前書いた「デザインアプローチという考え方」を参照ください。
このモデルを元にして、今ゆめみのサービスデザインチームは、クライアント企業様との様々なプロジェクトの中で、デザインアプローチを通じた変容支援を行っています。
基本的には、先ほどもお伝えした通り組織内におけるミドル層の方々とチームとなり、課題意識醸成のためのワークショップ実施からプロダクトレベルのデザインシステム構築、そして、デザインアプローチにおける全ての活動を活用した組織内外のステークホルダーを巻き込んだビジョン策定など幅広く支援させていただいております。
従来の外部デザイン企業としての支援で重要な焦点となってきたクリエイティブやアウトプットの品質にも着目するとともに、デザインアプローチを通じた変容にも焦点を当てることで、その場の関係性やコミュニケーションの質、活動の内容を適切に分析しようと試み始めています。
デザインアプローチ自体は、5つの構成要素のうちどこからでも始めることができます。一方で、それらを社内に内製メンバーだけで導入していくことにはいくつかのハードルがあると思います。
そのような場合に、ゆめみの名前を思い出していただき、一緒に組織内の変容の媒体となることができればと考えております。
全体のスライドはこちらからご覧にいただけます。
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SDJC2021に参加して
良くも悪くも世界的なパンデミックの影響により、世界的なカンファレンスの多くがオンラインでの開催に移行し、一参加者としては非常にハードルが下がり、新鮮な情報に触れることができる機会がぐんと増えたと体感しています。
そんな中、日本で5年ぶりに開催されたSDJC2021に参加できたことは、非常に感慨深いです。そもそも5年前は自分自身は、サービスデザインも知らないコミュニケーションデザインの学生だったので、そこからの道のりを考えると不思議です。
自分自身の中でもまだまだ試行錯誤な領域であり、日々実験と学習を重ねているサービスデザインという領域ですが、日本では少しずつ認知度が向上して一定のポジションを確立し始めたあたりなのかと純粋に考えていました。
一方で、今回のカンファレンスに参加してみると、ヨーロッパからの登壇者だけではなく、日本においても実践的な内容が数多く発表されていたことがとても印象的でした。特に、サービスデザインの導入そのものや単発のケーススタディというよりは、より包括的な効果検証、実績を通じた知見の体系化が求められているように感じました。
また、Except Integrated SustainabilityのCEOであるトム・ボスハートさんの登壇内容では、システム思考、プロダクト・サービス全体のライフサイクルを考慮した、サステイナビリティへのアプローチなども紹介されており、かなり視野が広がる感覚を得ました。
自分自身の視点もエンドユーザーのみを対象としたインタフェースだけではなく、より包括的なアクターネットワーク理論的な世界観へと変化する中で、デザインの効用を意識的に観察しているので、より言語化を進めることへの意欲が湧き上がるきっかけとなりました。
コミュニティへの貢献も意識しつつ引き続き頑張っていきたいと思います。
参考・引用文献:
[1]
片岡俊行.
創業理念・ビジネスモデル.
https://yumemi.co.jp/corporate_philosophy
[2]
野中郁次郎 & 竹内弘高.
『知識創造企業』梅本勝博 訳、東洋経済新報社、1996
https://amzn.to/3GsaZLr
[3]
Shelley Evenson & Hugh Dubberly.
“Design as learning — or ‘knowledge creation’—the SECI model (2011).”
http://www.dubberly.com/wp-content/uploads/2013/06/Dubberly_Design-as-learning.pdf
[4]
InVision.
"The New Design Frontier: The widest-ranging report to date examining design’s impact on business.”, Design Better., 2019.
https://www.invisionapp.com/design-better/design-maturity-model/
[5]
Dennis Hambeukers.
“The Design Maturity Model And The Five Disciplines of The Learning Organization.”, 2019.
https://medium.com/design-leadership-notebook/the-design-maturity-model-and-the-five-disciplines-of-the-learning-organization-20220faedfb3