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第6回 ヤナーチェク 歌劇「死者の家から」

チェコ音楽のレコード紹介Vol.6はヤナーチェクの歌劇「死者の家から」を取り上げます。レコードは1964年録音のグレゴール指揮のものと、1979年録音のノイマン指揮によるものとが手元にあります。ヤナーチェク最後のオペラ作品。ドストエフスキーの「死の家の記録」を元に作曲者自身の台本。
ヤナーチェクを語る上でオペラは欠かせません。多くの人は最初に室内楽作品やピアノ曲、あるいはシンフォニエッタのような管弦楽作品でヤナーチェクに接することだと思いますが、生涯通して多くの作品を残したオペラこそがヤナーチェクの醍醐味を味わえるジャンルだと私は思います。
一つには彼の独特の旋律や和声がチェコ語の抑揚に関係していることが大きな理由です。また人物描写や感情の表現において実に巧妙で、地味なストーリーや台本であっても心揺さぶれる仕上がりとなっています。「死者の家から」はドストエフスキーの小説を元にしていますが、ロシア文学への傾倒も彼の特徴です。しかしそれは思想的なものでなく、作品そのものへの嗜好的な理由だと思います。
「死者の家から」には色んな版がありますが、ノイマン盤もグレゴール盤も最もこのオペラが劇的に受け入れられる版を用いて作品の普及に願いを込めているように思います。物語は監獄が舞台ですから、全編において明るくなく、楽しいオペラとは言えませんが、主人公ゴリャンチコフの不遇さに対して心を寄せるヤナーチェクの心情表現は、彼のどのオペラでも思うことですが、音楽でのみ救いの手を差し伸べることができるということを示しているのではないかと思うのです。彼の台本選びの根底にはそういう意思が働いているのではないかと私は思っています。
(エンモ・コンサーツ:加藤哲)(2024年4月5日・Musica Panenka facebook 投稿)


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