見出し画像

第9回 スメタナ 歌劇「売られた花嫁」

チェコ音楽のレコード紹介Vol.9はスメタナの歌劇「売られた花嫁」です。今年生誕200年の節目になるベドジフ・スメタナは比較的裕福な家に生まれたため、チェコ語ではなく当時公用語とされていたドイツ語で育ちました。そのため、国民楽派の作曲家としてチェコ語のオペラを創作したいと思ってはみたが、相当苦労したらしい。
「売られた花嫁」は彼の2作目のオペラで最も成功した作品と言えるでしょう。この喜劇は最初ブッファとして書かれましたが、のちに台詞をレチタティーヴォ化して現在の形になりました。今私の手元には2種のレコードがあります。最初はズデニェク・ハラバラ指揮プラハ国立歌劇場による日本では1972年に発売されたもの、もう一つはその10年後に発売されたコシュラー指揮チェコ・フィルほかの1980年デジタル録音のものです。ハラバラ盤も素晴らしいが、断然にコシュラー盤の演奏が優れている。イェニークをドヴォルスキー、マジェンカをベニャチコヴァーという当時のチェコスロヴァキア2大スターが歌っているということもあるが、コシュラーの躍動感ある指揮ぶりは目下のところこのオペラの最高の録音として、しばらくの間はこれを超えるものは現れないのではないかと私は思う。
3枚目の写真は1985年来日したプラハ国立歌劇場の公演パンフレットです。私は6月26日の大阪フェスティバルホールの公演を生で観た一人なのです。目の前で繰り広げられる心躍るチェコの舞曲たちに、得も言われぬ感動を覚えました。これまで写真でしか見たことのなかった、長年にわたって守られてきた絵本から飛び出たような舞台セットが総天然色で映る現実に、夢のような体験であったことが昨日のことのように思い出されます。コシュラー円熟の時期だったのかもしれない。
レコードの装丁は本国スプラフォン盤よりコロムビアの日本盤のほうにセンスがあるように思う。ただ、解説書はハラバラ盤のほうが詳しいし、内容が濃い。訳詞はコシュラー盤の村井志摩子さんのもののほうが私は好きだ。コシュラー盤のほうはたしか映像でも収録されていてDVDも出ていたように思う。針を下ろした次の瞬間、チェコに連れていかれるような感覚になる。序曲だけでも堪能できてしまう名演奏だと思う。
ちなみに日本ではたいてい「プラハ国立歌劇場」と表記されるが、正確には「プラハ国民歌劇場」だと思う。プラハ市民の寄付によって建てられた歌劇場であるから、その心意気を正確に伝えてほしいと思う。(エンモ・コンサーツ:加藤)(2024年7月9日・Musica Panenka facebook 投稿)


いいなと思ったら応援しよう!