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春の祭典~和洋3つの弦~を聴いて

3月17日に名古屋の宗次ホールで「春の祭典~和洋3つの弦~」というランチタイムコンサートを聴いた。とても新しい可能性があるトリオに感じたので少し感じたことを書き留めておきたい。
3つの弦とは、箏、ヴァイオリン、チェロ、の邦楽洋楽の混成トリオになる。室内楽に最適なホールを運営する立場で、同規模の宗次ホールの企画は常にブックマークしているが、今回は更に邦楽が絡むということで注目した。というのも私どものホールのある木之本は和楽器の弦の産地であり、箏や三味線などの要素は地域文化との接点として必要とされている題材であるからだ。

今回の演奏者は箏が佐藤亜衣さん、ヴァイオリンが波馬朝加さん、チェロが紫竹友梨さん、いずれも若くて名古屋の音大芸大の出身者だ。佐藤さんはすでに多くの洋楽奏者との演奏経験があるようだ。波馬さんと紫竹さんはサラマンカホールのレジデンスカルテットの一員。紫竹さんは今回編曲も担当された。和洋のアンサンブルの場合、編曲に長けた方がメンバーに居るのは大きな利点だ。このトリオは今回初めての組み合わせのようだが、年齢が近いので同調性がありそうなのと、経験の浅さがかえってお互い気遣いなく接せられ、良い方向に作用するのではないかと推察する。

プログラムは前半が邦楽で宮城道雄の作品でGrosenbeck編曲の「春の海三重奏」「さくら変奏曲」「初鶯」に続き同じく宮城道雄の「北海民謡調」。後半が洋楽で、タイスの瞑想曲、ピアソラ(紫竹さん編曲)リベルタンゴ、アイネ・クライネ・ナハトムジーク、モンティのチャールダーシュとなっていた。ランチタイムの60分のコンサートだがうまく構成されていて、名曲要素もあり、馴染みのない方も楽しめる工夫がされていたように思う。合間のMCも屈託がなく好感が持てた。

前半の邦楽プログラムでは、洋楽2名がとても慎重な合せ方のように思えた。邦楽へのリスペクトからか、かなりかっちりとした演奏に思えた。邦楽の世界観を壊さないようにという想いが強く出ていたのではないかと思う。実は邦楽の世界はもっとアドリブを効かせてもいい世界で、装飾的な奏法が多くそれが奏者の個性を示す場合が多い。そう考えるともっと自由に楽な気持ちで入ってくれたほうが良いように思った。装飾的な奏法は西洋音楽にもあるわけで、彼女らが培った西洋音楽的なアプローチで入りこんでもらうことが、新しい表現のあり方を示してくれるようになるのではないかと、そういう方向性に期待が膨らんだ。この次にはぜひそういう自由な発想で、西洋の楽器が和の世界に入ってくれることを楽しみにしている。

そういう意味で、後半のプログラムの中ではリベルタンゴが内容的に良い仕上がりになっていたと思う。ピアソラの作品はクラシックを勉強してきた人でも、異種な世界であり、挑戦的な要素をはらむ。その点が、佐藤さんのお箏にとってもそうであるように、3人が同じベクトルで立ち向かえたことで、聴き手にアグレッシブな印象として残る演奏になっていた。また紫竹さんのひらめきによる、季節にちなんださくらさくらの要素を盛り込む編曲も新鮮さを醸し出し、好印象を与えた。このトリオの今回の一番の成果として残るパフォーマンスになっていたと思う。

演奏後ホールのご厚意で演奏者の皆さんにご挨拶させていただいたが、自らも新しい世界に踏み入れた楽しさを感じておられるようであったし、お客様の反応も良く、これからが楽しみなトリオではないかと感じた。ぜひ木之本に来て演奏していただきたいと感じた。
また、邦楽の世界をどうやって現代に浸透させていけばよいかという課題について、やはり現代邦楽の要素を前面に出すべきなのではないかと改めて感じた。その中から、日本人として根底に流れる和の響きや和の音階に馴染めてしまう感覚に、面白さや楽しさ、意外さなどを感じてもらえるようなそういう演奏会に取り組んでいければと感じた。

今日聴いたこの新鮮なトリオは、新しい世界を開いていってくれる期待感で満ちていた。また組んでほしいし、その取り組みが個々の成長につながってそれぞれのキャリアにプラスになってくれることを願う。


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