第7回 J.A.ベンダ ハープシコード協奏曲
チェコ音楽のレコード紹介Vol.7はイジー・アントニーン・ベンダのハープシコード協奏曲です。先日榊原先生から「加藤さんのレコード紹介評判いいわよ」っておだてられたものですから。調子に乗っている今日この頃です。
“ボヘミアン”という言葉があります。直訳するとボヘミア(チェコ)人ということになるのでしょうが、プッチーニの歌劇に「ラ・ボエーム」がありますが、これは“ボヘミアン”という意味です。とはいえご存知のように登場人物はチェコ人というわけでなく、方々から集まってきた若い芸術家の卵たちです。ボヘミアンとはジプシーを指す言葉としても使われるように“放浪する者たち”という意味になるのだと思います。
18世紀のボヘミア地方は音楽家の宝庫と言っても過言ではないくらい、音楽が盛んで才能あるアーティストを輩出していましたが、彼らを抱えられる有力な諸侯がいなかったため多くの音楽家はヨーロッパ各地に散らばり活躍をしていました。まさに“ボヘミアン”であったのかもしれません。
イジー・アントニーン・ベンダ(1722~1795・ドイツではゲオルク・アントン・ベンダ)もその一人です、ヴァイオリンの名手でもあった作曲家の兄フランティシェク・ベンダ(1709~1786・ドイツではフランツ・ベンダ)と共にプラハ近郊に生まれましたが、ドイツのポツダムやゴーダで活躍した作曲家です。主に劇音楽、メロドラマや歌劇を作曲しましたが、ここに聴くハープシコード協奏曲なども名作だと思います。時代はバロックから古典へと移り変わるときですが、こういった手練れの作曲家たちがすぐ後のハイドンらへの橋渡しをすることがあってこそ、欧州の音楽史が活況を呈していったのだと実感させられます。
ハープシコード演奏はヨセフ・ハーラ。スーク・トリオでパネンカが演奏できない時期に一翼を担ったチェコを代表するピアニストの一人です。ここでも軽快にパッセージを弾きこなしています。ソリストたちも素晴らしく、このレコードは一度聴いたらまた聴きたくなることうけあいの一枚です。(エンモ・コンサーツ:加藤哲)(2024年4月16日・Musica Panenka facebook 投稿)