終わりのないわたしたちが目覚めるとき(上演台本)
2018年の作品です。今読むと拙さもありますが、在り処の方向性が定まったきっかけであり、劇作家としてのターニングポイントでもあるため、掲載することにしました。
初演:在り処 3rd place(第7回名古屋学生演劇祭参加作品)
【登場人物】
・カナ 大学生。元彼に性的暴力(DV)を受けていた。
・マサキ カナの現在の恋人。社会人。
・エリカ カナと同じ学科専攻の友人。
・サトウ ある授業でカナの隣の席の男。
・先輩 カナの元彼。
他
役者は男1、女1~3。うち、女優は全ての人物を入れ替わりながら演じる。男優は先輩のみを演じる。
一
男がひとり。
そこへ、女が入ってくる。
カナ1 先輩。
先輩 ん?
カナ1 あの、私、ファンなんですよあなたの。
先輩 あ、うん。前聞いた。
カナ1 で、その、ただのファンだと思ってたんですけど、その、なんか、なんか違うなって思うんですよ最近。あ、最近ってここ一ヶ月くらいですかね。ここ一ヶ月くらいずっともやもやしてて。なんだろなこれってずっと悩んでたんですけどやっと昨日答えが出て
先輩 (遮って)好きなんだろ。
カナ1 え。
先輩 俺のこと。違う?
カナ1 え、あ……そう、ですね。好きですね。
先輩 うん。知ってる。
カナ1 えっなんでですか。
先輩 いやわかるよ普通。
カナ1 あ、そうなんですか?
間。
その様子を二人の女が眺めている。
先輩 じゃあ、付き合う?
カナ2 こんなんだったっけ?
カナ3 何が?
カナ2 私と先輩の始まり。
カナ3 こんなもんだったよ。
カナ2 そうだっけ。
カナ3 今聞くとさ、俺のこと好きだろってやばい発言だよね。
カナ2 自意識過剰はお互い様なんじゃない?
カナ3 まあそうだけどさ。
カナ2 大体、やばい人じゃんか先輩。
カナ3 何で?
カナ2 忘れたの?
カナ3 ……ああ、そういうことね。
カナ2 そういうことだよ。
カナ3 私、この人にレイプされるもんね。
二
エリカ カナちゃん。
カナ3 え?
エリカ ねえ話聞いてなかったでしょ。
カナ3 うん、聞いてなかった。
エリカ やっぱり。
カナ3 ごめん。
エリカ 1ミリもごめんって思ってなさそうで最高だわ。
カナ3 ごめんって、何の話だっけ。
エリカ 室谷君。
カナ3 誰それ。
エリカ ほら、月9に出てる人。私の推し。
カナ3 あ、芸能人ね。知り合いかと思ったわ。
エリカ わかるでしょ普通。
カナ3 引っ越してからテレビ全然見てなくて。
エリカ えー、一人の方がテレビ見ちゃわない? 家めっちゃ静かじゃん。
カナ3 静かじゃないよ。公園近いから子供の声聞こえる。
エリカ ババアじゃん。
カナ3 ババア言うな。それに静かな方が好きだし。
エリカ めっちゃババアじゃん。
カナ3 ババア言うなって。
サトウが二人の間に割って入る。
サトウ あのう。
エリカ はい。
カナ3 あ、隣の席の。
サトウ そうそう、佐藤です。えっと、
カナ3 和久井です。
サトウ ワクイさん。苗字珍しいね。
カナ3 そうですかね。
サトウ うん。あ、でさ、悪いんだけどさっきの授業のノートって見せてくれたりとか……。
カナ3 いいですよ全然。
サトウ ありがとう。助かります。
カナ3 返すの次の講義の時でいいんで。
サトウ まじで? ほんと助かる。
カナ3 文字汚かったらごめんなさい。
サトウ 大丈夫っすよ。俺のが絶対汚いんで。
カナ3 いやいや。
サトウ ありがとう。んじゃ。
サトウ、去っていく。
エリカ ……隣の人?
カナ2 ん? うん、英語でね。
エリカ ちょっと可愛いじゃん。
カナ2 そう? 初めてちゃんと話した。
エリカ え、そうなんだ。全然見えなかった。
カナ2 ……ごめん何の話だっけ。
エリカ ついにボケたか。
カナ2 うるせー。
エリカ だから、室谷君。
カナ2 ああ、エリカちゃんの推しであって知り合いじゃないムロタニ君ね。
エリカ そうそう、その室谷君が主演の映画昨日見に行ったんだ。
カナ2 どうだった?
エリカ もうめっちゃ格好よかった。最高。
カナ2 語彙が無くなるくらいよかったんだね。
エリカ 主人公の女の子に俺の女になれって言うシーンとか、一生守るから一生離れるなって言うところとか、ほんと格好よくて。
カナ2 へえ……。
エリカ あとね、他の男と喋ってるのに嫉妬してキスしたりとか、もう主人公なりてーって。室谷君の夢女子すぎたわ。……おーい。
カナ2 あ。
エリカ またぼーっとしてたでしょ。
カナ2 あ、うん、ごめん。
エリカ もー。
カナ2 まあ面白かったならなにより。
エリカ いや、映画自体はクソだよ。
カナ2 まじかよ。
エリカ そうそう、来月公開の映画にも出るんだよね。そっちは面白いといいな。
カナ2 私はさ、何でエリカちゃんと友達なの?
カナ1 友達になるのに理由が必要?
カナ2 だって、正直嫌いでしょエリカちゃんのこと。
カナ1 別に嫌いじゃないよ。
カナ2 好きでもないけど。
カナ1 でもエリカちゃんと私って友達でいていいの?
カナ2 わからないけど。
カナ1 エリカちゃんはさ、何というか、キラキラしてるじゃん。
カナ2 私と真逆だね。
カナ1 本当だね。
カナ2 ああもう、面倒くさいなあ。待たせちゃってるよ、ほら。
三
マサキ おかえり。
カナの家。マサキが先に帰宅している。
カナ2 ただいま。早かったね。
マサキ うん、仕事早く終わったから。
カナ2 よかった。
マサキ なんで?
カナ2 マサ君最近忙しそうだったから。
マサキ そんなのいつもじゃん。ねえ今日のご飯何?
カナ2 オムライス。
マサキ やったあ。バターライスがいい。
カナ2 わがまま言わないの。ほら、だって疲れてそうだったから。
マサキ バタバタだった。でもカナが癒してくれるんだろ?
カナ2 またわがまま。
マサキ えー駄目?
カナ2 駄目じゃないけど。
マサキ けど何?
カナ2 何にもない。はい。
カナ、マサキに抱きつく。しばらくそのままでいる。
マサキ カナ。
カナ2 ……。
流れでキスをする。そのまま性行為をする雰囲気になる。
カナ2 マサ君。
先輩3 お前、他の男とセックスするのかよ。
いつの間にか、マサキが先輩に変わっている。
カナ2 ……え。
先輩3 なあ、俺の女なんだよな。
カナ2 先輩。
先輩がカナを押し倒す。無理矢理性行為に及ぼうとする。カナは抵抗する。
カナ2 やめて。
マサキ カナ。落ち着いて。
気付くと、先輩の姿はない。
マサキ 大丈夫。俺だよ。
カナ2 ……。
マサキ 大丈夫だよ。
カナ2 ……マサ君。
マサキ 落ち着いた?
カナ2 うん、ちょっと。
マサキ やっぱやめとこっか。
カナ2 ……ごめん。
マサキ ううん。
カナ2 ごめんね。
マサキ 謝ることないって。
カナ2 でも、
マサキ カナが嫌なことはしたくないし、俺だって気持ちよくなれないよ。
カナ2 ……うん。
マサキ オムライス食べたいな。
カナ2 ……うん。
マサキ まだできないの?
カナ2 待ってよ、今から作るから。
マサキ 楽しみ。
カナ2 またセックスできなかったね。
カナ3 どうしてだろう。
カナ2 マサ君のこと信用してないの?
カナ3 そんなことないよ。
カナ2 じゃあ何で?
カナ3 ……わからない。いつも気づいたらいるの、先輩が。
カナ2 したいでしょ、マサ君と。
カナ3 したいよ。彼女だもん。
カナ2 あの人の彼女でもあったけど。
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