「魚だ」と男は答えた
ジョギングして作業服販売店の前を通りかかった。安くて機能的なので、作業服は好きだ。立ち止まってちょっと品物を物色した。うろうろして店の左脇の奥まった場所に進入してみた。雑多な物が置いてあって生活感が感じられた。水槽があって小さい魚がたくさん泳いでいた。
「売り物じゃないよ!」と男の声が聞こえた。
店の通用口に年配の男が立っていた。
そりゃ魚は売り物じゃないだろう、作業服の店なんだから。要するにここはプライベートスペースなので出ていけということだ。
「すいません」と僕は水槽から離れた。
「あの……」と僕はちょっと食い下がってみた。「この魚はなんていう品種ですか?」
「魚だ」と男は答えた。