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イナイチは、想像以上に。
福島県猪苗代湖一周(通称:イナイチ)は、以前から気になっていたサイクリングコースではあったのだが、私が敬愛する先輩Hさんが、猪苗代湖南の食堂で魅力的なソースカツ丼を食しているブログ記事を見てしまい、居ても立ってもいられなくなり相棒のCAAD13を輪行袋に詰め込んで「やまびこ」に飛び乗った。
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郡山で降り、磐越西線に乗り換える。
スタート地点として「猪苗代駅」まで行ってしまう手もあったのだが、思うところあって数駅手前の「磐梯熱海温泉駅」で下車。駅前ターミナルに足湯がある、ひなびた温泉街であります。
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早速愛車を組み上げ、着替えも完了。この駅にはあいにくコインロッカーが無いが、駅舎併設の観光案内所で200円で預かってくれるのはリサーチ済み。お願いしてみると「17:00で閉まるので、それまでに戻られますか?」と。現在10:51。ざっと計算して「16:30くらいには・・・」と返事をして出てくる。さて、急がねば。
磐梯熱海温泉駅から猪苗代湖までは、R49をひたすらまっすぐ。およそ10kmの道のりは緩やかな登り基調のコースです。うん、ウォーミングアップには最適。帰りには下ってこれるのも嬉しい。
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天気は快晴。夏雲が沸き立つが、気温は28℃〜30℃と快適な範疇である。調子よくペダルを回していると、近づいてきたのは「会津富士」こと磐梯山の雄々しい青々とした姿である。
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R49と猪苗代湖がぶつかるポイント「志田浜」の青看板が見えて、いよいよイナイチがスタート。湖面はまだはっきり見えない。
全周囲約60kmの猪苗代湖は、ほぼ平坦なルートでもありビギナーから中級者まで楽しめるサイクリングコースと言われている。湖の北から反時計回りにまわるルートが定番とされており、筆者は初めての訪問でもあることから、まずは定石通りのR49を西進。
途中、オニヤンマがしばらく前を引いてくれたり、そうかと思うと筆者を追い越して行ったバイクの人から「いいね!頑張って!」と言わんばかりにサムズアップを受けたりと、イナイチチャレンジを歓迎されている雰囲気がひしひしと伝わってくる。ペダルを回す脚も軽くなる。
R49を30kmほど走って、レクリエーション公園を過ぎた頃に見えてくるのが「強清水千本蕎麦」の看板。このエリアには湧き水を汲める場所があり、近くに蕎麦屋が三軒立ち並んでいる。おばちゃんたちが汲み終わるのを待って、頭から水をかぶったり、ボトルを満たしたり。キンキンに冷えた湧き水に、生き返る心地。
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この先はR49からR294に乗り換えて、湖西エリアを南下する。やや湖面からは離れていることもあり、時間を稼げるポイントと思い定めて高速巡航と行きたいところではあったが、季節的に南からの向かい風。おまけに路面状況が悪くアスファルトのひび割れが目立つため、思うようにスピードが上がらない。時刻は正午を過ぎて、気温も上がってきた。さっき汲んできた湧き水を、両脚や頭にもかけて前へと進む。腹が減ってきた。そういえば朝から食べたものは、仙台駅のドトールで食べたモーニングセットのサンドイッチくらいだ。しまった。「平坦基調の60km」とどこかで侮って、補給食を持ち合わせていない(さっきの蕎麦屋であげまんじゅう美味しそうと思った直感に従っておくべきだった)。
イナイチの注意点として、補給ポイントの少なさが挙げられる。ルート上にコンビニは数軒あるものの、西側エリアには序盤を除いて湖南エリアまで見当たらなくなってしまう。
空きっ腹に焦る気持ちとともに、サイクルコンピュータをチラッと見る。昼食の目的地にしている食堂までは、あと10kmちょい。20分と見積もって、このペースで何とか走りきろう。第一、止まったとしても見渡す限りススキと田んぼしか無いのだから。
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太陽が真上にさしかかっているというのに、やや寒気を感じるようになってきていよいよヤバいなと思ったころ、なんとか目的地の集落に到着。めあての看板が見えてきた。
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時刻は13:15。日曜。店の前には人だかり。あれ、嫌な予感がする。
「ちょいとごめんよ」とばかりに順番待ちの名簿を見ると10組待ち。ああ、神よ。我に試練を与えたもう。
こういうときの嗅覚というか行動というのは機敏なもので、ババッと周囲を見渡すと、隣に個人経営の肉屋がそっと開店しているのを発見。駆け込んでアクエリアスとクーリッシュを買って店の前のベンチで補給。はぁ、何とか事なきを得た。
チューチューとアイスを吸っていると、大阪屋から先行者のローディーが出てきたので「こんにちはー」と声をかけてみる。返事があったので、ふと「このお店って、カウンターありますか?」と聞いてみる。彼は「4つあるけど、僕がここに着いたのが11:30過ぎで、この時間ですから・・・」という。おお、軽く1時間は待ったということか。「でも、ここ以外に食べるところ少ないし、うまいんですよね」と嫌な事を言うではないか。
うーんしかたない。どのみち補給しなければ動けそうもないし、大休憩ということで待ちましょう。しばし先行者のローディと談笑。彼はグレーのクロモリにアルテを積んだ機材で、郡山から来たという。曰く、イナイチには「外周」と「内周」とがあり、外周は平坦基調の「イージーモード」、内周は九十九折15%の登り区間がある「ハードモード」とのこと。登りそのものは良いのだけれど、落葉や路面状況の悪さ、そしてそれを引き換えに得られる絶景があるのか、というところが大事な気がする。まぁ、走ってみなければわからないが。
あまり長くクロモリ氏を引き止めるのも悪いので、「少し待ってみますよ」と別れる。しかし、まさかここから1時間以上待たされるとは思ってもみなかった・・・。
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「空腹は最大の調味料」というが、待たされ過ぎてカウンター席で意識を失うんじゃないかと思った頃に着丼。おおお、これがあのHさんが宇都宮からの帰路でわざわざ立ち寄ったというソースカツ丼か。ぶ厚い。想像以上にぶ厚い。1.5cmはある。これを一から揚げてソースにどっぷり浸かってきたのだから、そりゃあ時間もかかろうというもの。納得。切り口からしたたるソースと湯気。一口噛むと歯ごたえのある弾力。うまい。餃子、ちょっと余計だったかもしれないという不安がよぎるくらいのボリューム。ラーメンスープもしょっぱ過ぎない味付け。餃子は、疲労回復の意味でも酢をたっぷりと胡椒で食べたが、餡にそれほど味がついていないので、後から醤油も足して食べた。皮がパリモチ。
ちなみにラーメンの方が着丼は早い。量もけっこう多いらしく、別卓でおじいちゃんが大盛りを頼もうとしているのを店員さんにやんわり制止されていた。次は味噌ラーメンか。
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さて、ここで大きくタイムロスした。現在14:30。あと半周。急がねばならない。
ここへ来て、イナイチのルート案内表示と、ブルーの矢印が所々で現れ始めた。「青松浜線」という、期待の高まる直線を湖に向かって北上する。「福良」という地名もあいまって、以前行った淡路島一周(アワイチ)を思い出す。
そして、その絶景は突然現れた。
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湖東エリアは、湖すれすれにせり出した道を走れるとは知っていたが、これほど近いとは。湖から渡ってくる風が心地いい。湖水浴している人、BBQしているグループ。緑の森、透明な湖面に白いヨットが浮かんでいたりすると、なぜか涙があふれそうになる。想像以上に美しい。
日本で4番目に大きな猪苗代湖。湖岸は様々な「〜浜」の名前が付いており、「〜マリン」という看板もちらほら見える。この地域の人々にとって、海水浴よりも湖水浴の方が親しみが深いのだろう。楽しげに集い、思いおもいに湖という資源を楽しんでいる、正しい日曜日の過ごし方を横目に、筆者は先を急ぐ。
やがて、湖面に西日がかかってきたころ、スタート時に青看板で見かけた「志田浜」に到達。イナイチ、達成であります。
北上してきたK9と、R49とがちょうど交わるところにカフェとサイクルラックがあるのを見つけ、時計を確認しつつではあるけれどイナイチゴールを味わっておこうと立ち寄ることにした。
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ここのカフェ、めちゃくちゃ良い。湖のほとりでコテージ借りたり、サウナ借りたりもできるそうな。
福島の夏といえば桃!ということで桃ジュースを楽しみながら、穏やかな湖面を眺めまして、これにてイナイチ、コンプリートであります!!(ドドン)
【おまけ】
荷物を預けた観光案内所に、予言通り16:33に到着してバックパックをピック。
往路を「磐梯熱海温泉」からにしたのはもちろん、帰りにひとっ風呂浴びてさっぱりしてから新幹線で帰りたいから、なのでして。それに、妙に気になる元湯の共同浴場なる秘密めいた場所があるのを見つけて、行ってみたくなったのでした。
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この元湯は「元湯霊泉」と呼ばれ、源泉の温度が体感で20℃ちょいくらい。大きな浴槽にはぬるい(つめたい)源泉が満たされ、隣に一回り小ぶりな温かい湯を張った浴槽がある。
朝6:00〜の料金がもっとも高くて、だんだん安くなって16:00を回ると300円に下がる料金システム。タオル1枚100円。洗い場もまともにないような古い作りだが、この雰囲気は他では味わえない。
番台のじいさんが人懐っこく話しかけてくる。この温泉は100年前からあるそうで、子供の頃ハブにかまれた近所の兄さんもこの湯で治った、といいながら、うまそうにポッカリと煙草をくゆらしている。肌にお絵描きしている人も、外人さんもチビっ子も、仲良く芋を洗うようにして風呂を楽しんでいる。一見ひなびているようだけれども、良い温泉街だなぁと服を着る。
帰りの電車を気にしながら駅前の片隅で輪行の準備をしていると、今度は道行くおばちゃんから声をかけられる。曰く、東京のお友達のスズキさんという人が、PBPに出場したという。普通のおばちゃんから「PBP」という言葉が出ることも驚きなのだけれど、そのスズキさんは1,150km走ったところで、別の出場者と接触して自転車が大破したためにDNFしたという。ほんの一握りの選ばれし者しか出場が叶わない4年に1度の鉄人レースのゴールに、あとわずか届かなかったというのは想像を絶する悔しさであろう。
輪行の準備が整ったところで、作業を珍しげに見ていたおばちゃんは「良いメカをお持ちね」と言って去って行った。帰りの電車まで、あと5分。
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