「5つの視点」で取材する【文章術059】
僕のnoteでは、これからライターを目指す人や、新たなスキルを身につけたいビジネスパーソンに向けて、文章力を培うためのポイントを解説し、練習課題を出していく。
今回は、原稿執筆の元となる「取材」のための5つの視点についてまとめたい。
5つの視点とは
ライターは様々な原稿を執筆をする。そのために様々な形で取材をする。その記事をどんな構成にしようか、どんな情報を得ようか、と悩むことは日常茶飯事だ。
一方、「情報の骨格」とでも言うべき、取材すべきポイントというのは実はさほど複雑ではない。これはどんなテーマでも当てはまる。
具体的には、次の5つを押さえれば、概ね良い原稿になると言っても過言ではない。
1)客観的事実
2)時系列での変化
3)他者との違い
4)抱える課題
5)今後の方向性
以下、それぞれについて解説していこう。
1)客観的事実
まず、モノゴトに対する客観的事実が必要だ。例えば「A社は3月4日、新製品の●●を発売した。価格は3万円だ」のような情報である。
これが人に対するインタビューであれば、その取材対象となっているモノ・コトの何が注目されているのか、を把握すべきである。例えば、「B社がSNSに投稿した動画がバズって、●●万ものリアクションがあった」のような情報だ。
原稿の中でも、こうした事実を提示することで、読者は「何故このテーマで記事が書かれたのか?」を把握できる。
2)時系列での変化
続いて、時系列の変化だ。客観的事実だけでは、そのテーマに詳しい者しか「情報の意味」を噛み砕けない。
例えば、「A社は3月4日、新製品の●●を発売した。価格は3万円だ」という事実に対しては、「A社は昨年春に、▲▲という製品を発売していた。この前世代の製品と比べ、新製品では重さが2/3まで減っている」という時系列での情報を加えることで、意味を掴みやすくなる。
同様に、「B社がSNSに投稿した動画がバズって、●●万ものリアクションがあった」という事実に対しては、例えば「実は新しく就任した広報担当者が凄腕だった」とか「人事の方針を抜本的に変えた」といった出来事の源流に迫ることで、情報にストーリーが生まれる。
3)他者との違い
一方で、時系列だけの情報になってしまうと、取材対象の独りよがりな話になってしまいがちだ。そこで縦軸だけでなく横軸を作る。
手取り早いのが、市場における競合他社や先駆者との比較によって、実際の姿を映し出すことだ。
例えば「A社は3月4日、新製品の●●を発売した。価格は3万円。同社が昨年春に発売した▲▲と比べて質量が2/3に軽量化された」という情報に対しては……
「競合であるC社では、120gの製品が提供されているが、A社の新製品はそれに迫る123gである」といった情報が加わることで、市場における位置付けが分かる。
また、「B社がSNSに投稿した動画がバズって、20万件ものリアクションがあった。この裏には、新しく就任した凄腕広報の奮闘劇があった」と言う情報に対しては……
「最近、企業が投稿してバズった動画としてはD社の事例があり、そちらのリアクションは3万件だった」とか「〜の調査によれば、SNSの運用に専任担当職を設けている企業は〜%いる」といったデータを加えることができるかもしれない。
特に、記事の中で競合の固有名詞を出しづらい場合には、市場のトレンドのような形で横軸を作ると説得力が生まれる。
4)抱える課題
その後、メリット以外を側面を把握する。「課題」や「抱えるチャレンジ」のような表現にしても良い。
例えば「A社は3月4日、新製品の●●を発売した。価格は3万円。同社が昨年春に発売した▲▲と比べて質量が2/3に軽量化された」という情報に対しては……
「競合他社製品では、バッテリー持ちが概ね3時間くらいあるが、A社の新製品では2時間しかない。性能を優先した反面、バッテリー持ちには注意が必要だ」などの課題を捻り出したい。
また、「B社がSNSに投稿した動画がバズって、20万件ものリアクションがあった。この裏には、新しく就任した凄腕広報の奮闘劇があった」という情報に対しては……
「現状、成果は出ているものの作業が属人化してしまっているので、人事の異動があったときにノウハウを引き継げるように運用を考えなくてはいけない」のようなエピソードが出てきたらラッキーだ。
こうしたマイナス面のことが少しでも書けることで、読者から見たときに、情報の信頼性は上がる。
5)今後の方向性
そして、未来の話を抑える。これがあることで、特にインタビューの場合には原稿の締めを整えやすくなる。文脈に酔っては直前の課題と紐づけることも多い。
例えば製品の話ならば、「現状、A社の新製品ではバッテリー持ちが2時間しかないが、3か月後にはソフトウェアアップデートによって節電用の機能が提供される予定だ」といった展開があると美しい。
または「1か月間はキャンペーンを実施しており、2000円ほど割安に購入できる」といった情報を加えても良いだろう。
一方、上述のSNSの話のようなインタビューならば、「継続してSNSの運用を工夫していきたい」といった当たり障りのない話が出てくることが多いだろう。「属人化を防ぐために、人事異動に備えて、マニュアル作りやチーム体制を整えたい」という話が引き出せたらしめたものだ。
またこうした話が出てこなかった場合には、話題を展開して「現状はSNSのバズりが収益に繋がっていないが、顧客との信頼性構築に役立てばそれで良いと思っている」のような話に繋げても良さそうだ。
まとめ
良い原稿を書くためには深みのある取材をしなくてはいけないと思いがちだが、取材の「骨格」とも言える視点は実はシンプルだ。
必ずしも1〜5の視点の全てを書がなければいけないわけではないが、これらの情報が揃うことで、原稿としての説得力ある体裁が整う。
例えば、本noteで適当に並べた情報を、それぞれ整えてみると原稿っぽくなる。
上記の形がベストとは言わないが、1〜5の視点ーー①事実、②時系列、③競合、④課題、⑤未来をなぞることで、堅実にモノ・コトの情報を高い解像感で描きやすい。
書き手の人間としてのスキル・パフォーマンスに左右されず、安定して及第点のクオリティを発揮するには、こうしたマニュアル的な手法も重要だ。
練習課題
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