「読者」を決める【文章術006】
僕のnoteでは、これからライターを目指す人や、新たなスキルを身につけたいビジネスパーソンに向けて、文章力を培うための練習課題を出していき、そのポイントを解説していく。
今回は、書き手が「読者」を想定する重要性について説明していきたい。
「ライターって何?」への回答
「フリーライターってどんな仕事なのか?」と聞かれたときの答えとして、いつも使う定型文がある。
まぁ、実像の5〜6割くらいを捉えた程度の表現だけれども、大多数の人が「学生時代」を経験しているので、伝わりやすいだろうという例えだ。
定期テストで出回ったノート
これは、かつて僕が学生だった頃の経験も踏まえている。ちょうどスマートフォンが出始めたくらいの頃で、LINEもまだなかった時代の話だ。
当時、教科書や資料配布をせずに教授が板書だけしている(そのコミュニティでは珍しいタイプの)講義があった。僕はその講義を真面目に受講していて、殴り書きのメモをPCでテキストデータに起こし、定期テストに備えていた。
そして、2〜3人の友人らがピンチそうだったので、そのデータを「あ、これコピーしていいよ」とUSBメモリを手渡した。このデータが、今風な表現を使えば“プチバズった”。
試験前に廊下を歩いていると、隣のクラスの一度も話したこともない人が僕のノートを印刷したデータを持って慌てて勉強している姿があった。それも一人ではない。何人もが僕のノートを印刷したプリントを持っているのだ。さらに言えば、その翌年の定期テストでも同じノートが活躍したらしい、と後輩から噂を聞いた。
テスト前の学生とはすごいエネルギーを持っているものだな、と感じたものだった。
ちなみに、この話にはオチもあって、初期データには2箇所くらい間違ったことが書いてあるので、その点をしっかりアップデートした僕と数名の友人以外は簡単には満点には辿り着けないようになっていた。
情報を欲している人はいる
そのノートに書いてある内容自体は大した情報ではない。図書館にある専門書を開けば書いてある内容だ。
しかし、そのノートは読まれた。定期テストに臨むにあたり「何も知れば良いのか分からない」という人たちに刺さったからだ。
これは、ライターがメディアに記事を書いて、誰かが価値を感じるーーという構造の最も典型的なパターンだと思う。情報自体はすでに世の中(図書館)に存在するが、何をどう調べたら良いかわからない(テスト範囲)が分からない人にとっては、天から降りてきた蜘蛛の糸にも見えることもあるというやつだ。
ちなみに誤解の無いよう補足しておくと、先の例でも常に講義に出られなかった人達が「悪」なわけではない(まぁ、サボって遊んでいたやつも中にはいただろうが……)。体調が悪かった人、家賃を稼ぐためにシフト制のアルバイトに明け暮れざるを得なかった人、部活動の大会や就職活動などを優先した人など、様々な事情が混在していたはずだ。
このように何かに困っている「読者」になる存在がいて、そこに刺さるコンテンツを用意すれば、情報の価値は上手く機能する可能性が高い。
ビジネスシーンでも考え方は同じ
こういった構造は、ビジネスシーンで原稿を書く際には必ず意識した方が良い。例えば、僕は企業とのタイアップ広告記事などを書く前には、ほぼ必ず次の質問をする。
実際、企画段階では、ターゲットや読者のペルソナについて練られていることは多いと思う。一方で、媒体の編集部やライターに企画が降りてきた段階で、(もし誰かがマーケティング概念を理解していないと)こういった文脈がごそっと抜け落ちるリスクがある。そうなると、企画段階で記事に期待していた結果は得にくくなる。
そして、この抜け落ちを一番起こしやすいのが、「ライター」だと思う。編集担当者がこっそりサポートできる場合には問題ないが、毎回そうとも限らない。
そして、「読者」を見誤った原稿の先にあるのは、書き直しや読まれても効果が出ない可能性の上昇という悲劇だ。構成全体に影響し得る土台だからである。
「読者」を変えたリードを比較
こういった前提に基づいて、文章の書き手は、普段から自発的に「読者」のペルソナを具体的にイメージしなくてはいけない。「この記事は誰が読むのか?」を徹底的に具体化してイメージすることで、その人が興味を持って記事を開き、結果役立つ記事へと仕上げていくのだ。
では、書き出し(リード)でどんな差が出てくるのか試してみよう。適当に「ラベルの無いペットボトル飲料」が欲しくなりそうな記事で、読者を想像して書いてみる。
パターンA
パターンB
パターンAは、通勤時の電車で、スマートフォンのニュースキュレーションアプリで調べものをしているビジネスパーソンを、読者としてイメージしながら書いたテキストだ。
一方、パーソンBは、仕事や子ども、介護などの都合で買い物に出かけるコストが高く、重い荷物も運ぶ手段が少ないために、ネットスーパーの利用が多い人をイメージした。
おそらく、記事によって、パターンAと、パターンBのどちらが求められるのかは変わってくる。書き手は、この差について自発的に確認する必要があるわけだ。
今回の課題
では、今回の課題だ。
今回、性別や年齢は大雑把で良いので、頭の中で「どんな習慣がある人がどんなことをしながら読んでいるのか」を具体的にイメージしてみてほしい。
もし難しいと感じる場合には、家族や友人など、具体的に知っている人を想定読者としてイメージする手法もオススメだ。
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