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3.ポルトガル人と魚(第7章.旅先で考えた食することの楽しみ①)
ポルトガル人は他のヨーロッパ諸国と比べて魚介類をよく食べるほうだ。何と言っても大航海時代、スペインと共に世界の海を支配したのだから、海のものに関しては昔から馴染みがある。
私がポルトガルのエヴォラという街に行った時のことである。お昼時なので、何か食べようとレストランを探した。ポルトガルでは「Bacalhau(バカリャウ)」という干鱈が名物と聞いていたので、私は心の中で「バカリャウ…バカリャウ…」と呟きながらレストランの前に掲げられたメニューを見ながら歩いていた。
すると、確かに「Bacalhau(バカリャウ)」とメニューに書かれたレストランを発見。雰囲気も良かったので入ることにした。
レストランは何と、中庭を利用したもので、お客のほとんどは中庭(要するに屋外)で食事をすることになる。この日は抜けるような青い空。外での食事は何とも気持ちがいい。それだけで私はこのレストランが気に入ってしまった。
頼んだものはもちろん「Bacalhau(バカリャウ)」。しかし、魚そのものの形でテーブルに並べられるものだと思っていたら、出されたのもはコロッケだった。私はメニューを見た時、「Bacalhau」の文字だけで満足してしまい、「Bacalhau」の次に続く文字(たぶん「コロッケ」)を見なかったのだ。まあ、結果的にコロッケも美味しかったから、もちろん不満は何も無い。ただ、コロッケにまで干鱈を入れるほどポルトガル人は干鱈が好きなんだ、と畏怖の念を覚えた出来事だった。
さて、ポルトガル人と魚とのエピソードはまだある。私は首都リスボンの旧市街にあるレストランに入った。メニューを見るとイワシの塩焼きがある。日本のレストランではないかと見まがうようなラインナップに驚き、興味半分で頼んでみた。
すると、本当に尾頭付きのイワシの塩焼きが出てきたのである。見た目では日本にあるイワシの塩焼きと何ら変わらない。それをナイフとフォークを使って食べるのである。普段、箸を使って魚を食べる日本人の私にとって、それは非常にシュールな光景で、少し違和感を覚えつつも美味しく平らげた。
イワシの塩焼きというと、リスボンではアルファマという地区の名物とも言われている。アルファマ地区は小高い丘の上にあり、細い路地が迷路のように続いている。恐らく、このような街の造りはアラブの影響と思われる。今でも下町情緒が残り、庶民の素の生活が感じられると、観光客にも人気のスポットだ。
そんなアルファマを歩いていると、何処からともなく漂ってくるのがイワシの塩焼きの匂いである。実は、このアルファマの道端で、イワシを七輪で焼いているのである。その光景はかつての日本の下町と何ら変わらない。何故、ここアルファマ地区でイワシを焼くようになったのかは不明だが、庶民が日常的に最も手軽に食べられるご馳走がイワシの塩焼きなのではないか、と想像する。それはポルトガルであろうと日本であろうと変わらないのではないだろうか。
海に育まれながら育ってきた食文化。時代を経てもずっと変わらず人々の心に定着し続けているのは、それは自然のもたらすものが一番である、ということを体が分かっているからだと思う。
アルファマの丘を降りても、あのイワシの焼く匂いがまだ私の鼻をくすぐっている。今夜はやっぱり海の近くのレストランで魚介類でも食べようか…。