【小説】黒い影
未完の作品ですが
ちょっと気に入ってるので
※iPhone用に設定してあります。
【1.夢の話】
そのとき、俺の視界にはあまりにも異様な光景が広がっていた。
なんだ、これ。
夢……?
目の前で閉じた傘が、突如として開きながら凄いスピードで落下していく。それも一つじゃない、何十本もだ。
大量の傘が落ちていくのを目の前にして、あの傘の大群はどこに消えていくのだろう、なんてそんなことをボーッと考えていた。
頭が働かない……。そもそもここは何処だ?俺のスマホ……いつも肌身離さず持ち歩いているのに、見当たらない。
傘に気を取られていたが、少し目を凝らすとその合間を縫って大きな黒い影が近付いて来ているのに気が付いた。
俺は思わず後ずさる。
2メートルほとの大きな影だ影だ。ボヤーとしていて、その実態は揺らいでいる。
恐らくだが、人間ではないだろう。だとすると、なんだ。熊か?
しかし、それにしては横幅がない。
俺が知らぬ間に、黒い影が耳元まで来ていた。そして、こう囁いたのを聴いた。
「お前の魂を代償として……」
そこから先は上手く聞き取ることが出来なかった。しかし、奴の眼差しは異常に鋭く、暫く俺の脳裏から離れることはなかった。
【2.カラス】
「あ……」
振り返ったが、既に奴の姿はもう見えなくなっていた。
それから視線を戻すと、目の前を落ちていった大量の傘は、その場に静止していた。
「夢なら早く覚めたいもんだぜ」
そこに留まってもどうしようもないので、俺は黒い影がやって来た方向に向かって進んでみることにした。
カラスのなく声が聴こえる。きっと近くに居るのだろう。
傘以外は何もない。真っ白な空間だ。
だから、この黒い傘と先ほどの謎の黒い影は目立ったのだ。
黒と白の世界。なんて退屈なんだろう。
ここまで彩度がないと、気が狂いそうになる……。
このおぞましい空間を暫く歩いていると、カラスの鳴き声がだんだん大きくなっていることに気がついた。
「ウワッ!!!」
なにか踏んだ、そう思って目線を下に向けると、足元にカラスの死体があった。その目玉は飛びてていて、鳥類特有の太い茎のような足はちぎれている。
すぐさまカラスから足を上げると、ぐちょ、という生々しい音がした。
思わず、カラスを拾い上げる。
「ゴメンよ、俺、お前が足元にいるのに気が付かなかったんだ。どうか許してくれ。」
埋葬してやるにも、この真っ白な地面は掘り返すことはできない。
コンクリートのようで、それほど硬くはない、謎の質感なのだ。
拾い上げたカラスをその場に残し、去ろうとすると、カラスの飛び出た目玉が俺をギョロっと見つめた。
「オレも連れていけ」
なにかの空耳だと思った。しかし、それは間違いなくこの屍同然のカラスが発した言葉だった。
「なぜ、お前を連れていかなければならない?」
かえって俺は冷静だった。というのも、最早ここで慌てふためいても仕方がないと判断したからだ。
俺は目の前の屍カラスをじっと見つめる。
カラスの方も、横たわりながらも負けじと俺をじっと見つめている。
「なぜって、そうしないと、大変なことになるぜ」
カラスは、やはり瀕死状態のようだった。そう言う合間にもゼェ、ゼェ、と小さく呼吸をしていた。
俺は、なんだかこのまま置いていくのも気が引けると感じたので、もう一度カラスを両手で拾い上げてやった。