気分は湾岸ミッドナイト(前編)
一年ぶりのわくわくである。
うちのハーレーは今「ちょっとハンドル替えてみました」とか「マフラー付け替えました」という改造とはまるで次元が異なる、インジェクションチューニングをしてもらっているのだ。気分は湾岸ミッドナイトのそれヨ。
だが…この話をするには、一旦地球温暖化にまで話を遡る必要がある。
■環境と規制
先日、久々に横浜の日産ショールームを見に行く機会がありまして。スーパーGT@日産は2022年はZで行くというニュースを見ていたので、新型ZとかGTカーのプロトタイプとか見れるかな?と思っていたのですが…もうレース成分はほぼゼロ。完全に「日産はEV推しです」というメッセージがギンギンに発信されていました。
時代だよなー。
地球温暖化、持続可能な開発目標(SDGs)…今世界が直面する課題は、とても深刻なのだ。未来の世代にきちんとこの世界を残していくために、人類がこの先も存在し続けるために、様々な取り組みがなされている。
例えば我々の文明は石油プラスチック文明と言っても過言ではないわけでだが、ご存知令和の悪法、コンビニで「あ、袋ください~」って言わなければいけなくなっちゃったのは小泉進次郎がアホだからとかではなく(諸説あります)このプラスチック推しな世界が、間違いなく「今」曲がり角を曲がっているからなのだ。
そうした規制のひとつに、「排ガス規制」というのもある。自動車の出す排気ガスはできるだけキレイにして地球の温室効果を少しでも減らそうというものだ。特に欧州や日本の排気ガスの規制はむっちゃ厳しく、2030年にはもうガソリンエンジン車は製造しない!(キリッ)と言い切っちゃってる国もある。いやー振り切ったねぇ。
とはいえこの規制は今に始まった話ではなく、昔からある。○○年の規制、というそのハードルが定期的に上がっていくたびに、規制をパスできない車は製造・販売ができなくなる。国産のスポーツカーがどんどん減っていって、一時期完全に死滅したのはそういう理由だ。大好きだったRX-7もシルビアも、皆そうやって死んでいき、ガチで体力があるトヨタでさえスバルと共同開発しなければハチロクを復活できなかったわけだし、スープラだってBMWとの共同開発だったわけだし。
■バイクの世界におけるそれ
これはバイクの世界にも言えることで、規制が強化されるタイミングで様々なモデルが絶版になったり、エンジンを新しくしたりする。ついでに車体まるごとリニューアルして復活してきたりもする…血の滲むような企業努力をしている。モンキーとかそれよね。
シーラカンスのようなエンジンを積んでいるハーレーも同じことで、どうにかこうにか規制をパスして、昔から脈々と続いている古き良きモデルの製造・販売を続け、日本での販売許可をゲットしてきた。
ただね、思うわけですよ。バイクの排気ガスなんか規制したって、正直たかが知れている、と。
それよりも今日本の物流がほぼほぼトラック輸送に頼りっきりな現状。高速のパーキングとか国道沿いの巨大なコンビニとかで、深夜時間調整とか仮眠をとったりされている車輌がエンジンかけっぱなしであるというその状況。
あれ、排気量どんだけあるか知ってます?
大型トラックの排気量は9000㏄~30000㏄とかあるのよ。そっちなんとかしていくほうが大切じゃね?そしてなにより、その過酷な勤務体系をドライバーさんに強いている日本の物流政策、消費行動を見直すべきじゃね?24時間365日、コンビニで美味しいおにぎりが食べられるのはそのおかげなわけだけど…もうそれ辞めません?
さて、話を戻しまして…このハーレーの「どうにかこうにか」に、ひとつ大きな問題がある。
最近の車&バイクには、小さなコンピューターといくつかのセンサーが組み合わさったシステムがほぼ例外なく搭載されている。で、気温とか速度とかエンジンの状態とか様々な条件を常に測定していて、最適な状態でエンジンに燃料を噴射し供給するという優れたシステムが搭載されている。(なお昔の車はこのへんを物理的な機械構造でやってのけていた。)
このシステムにより、ありえないくらい機械としての効率が良くなり、燃費も良くなる。というものだ。(素人知識です。業界の方、詳しい方、違ってたらごめんなさい。温かい目で…)そして、その制御をやっているのが、その小さなコンピューターなわけだ。
それは、メーカーが何億、何十億と技術の粋を凝らしエンジニアが束になって開発した超優秀なコンピューター…のはず。なのだが…ここでどえらいことが起きている。
本来パワーを出さなければならない加速時や、低回転→高回転領域にあがっていく段階の設定が、ありえないくらいパワーが出ない、排ガス規制をクリアするためにイカれた設定になっている…というのだ。
それでも。
それでも、ついにもうこれ以上規制を超えられない…というところまで来てしまい、今僕が乗っているモデルは2022年で販売終了となることが確定した。つい先日ファイナルエディションが発表され…日本限定1300台は即ソールド・アウトとなった。
■規制クリア>>>>>>>性能>>>乗り手の乗りやすさ
全ては「規制」をクリアするため。
ともかくこの規制をクリアしなければそのモデルを売ることがそもそもできないのだから、エンジンのパワーが出なかろうが知ったことではない。そんなこたぁどーだっていい。ノーマル状態の車輌をシャシダイナモでパワー測定すると…見事に規制をクリアするためだけに、常用域の回転数部分でパワーが出ないセッティングが施されているグラフが算出される。
そして、ついに憧れのハーレーを買ったはいいがヤマハのNMAXあたりのスクーターに信号ダッシュで平気で抜かされたり…「なんか…思ってたより遅くね?」と思ってしまったり…ということが起きる。
少なくとも、もっと排気量の小さいカワサキのオフ車250ccとかに乗っていたときはそんなこと思いもしなかったのだ。「こんなはずはない」と思いあれこれ調べると…今日のこの話に到達するという寸法だ。
つまり、そういうことなのだ。現代のハーレーは、皆意図的にその力を押さえつける、いわば拘束具が枷せられた状態で世に送り出されているのだ。静音マフラーとかそういう次元の話ではない、根本的に力が出せない状態。エンジンにとって「病気」というわけではないが、不健康極まりない状態。
―「拘束具が」
「こうそくぐ?」
「そうよ。あれは装甲板ではないの。エヴァ本来の力を私たちが押さえ込む為の拘束具なの。その呪縛が今自らの力で解かれていく。私たちにはもうエヴァを止めることはできないの。」
「初号機の覚醒と開放。ゼーレが黙っちゃいませんな。これもシナリオの内ですか?碇司令。」
「始まったな。」
「ああ、全てはこれからだ。」―
そう。ついにその呪縛から解き放つ時が来たのだ。
(後編へ続く)